第8章 呪いの家
慌ててそちらへと視線を向ける。
洞窟の入口が徐々に狭まっているのだ。
まるであたしたちを出さないと言わんばかりに。
「くそっ」
ぼーさんが入口へと視線を向けたとき、ナルが冷静に言った。
「大本を断てば自然に開く。あんなものにかまうな」
なんでそんなに冷静で居られるのか。
不思議に思っていれば、遠くからまるで人の声のようなものが聞こえてきた。
「なに!?」
悲鳴のような叫ぶ大勢の声である。
心臓の音に悲鳴のような叫びに、思わず耳を塞いでしまう。
「やだもう……やめてよ……!」
段々と声が近づいているような気がした。
まるで背後から近づいているような気がして、恐る恐ると壁の方に振り返る。
壁から声が聞こえる。
するとそこから人の顔のようなものが現れ、思わず悲鳴をあげそうになった時である。
「──はじめに言があった」
ジョンの声がし、あたしは閉ざしていた目をゆっくりと開く。
「言は神とともにあった。言は神であった。この言ははじめ神とともにあった。万物は言によって成った。成ったもので言によらずに成ったものはなにひとつなかった──」
ぴたりと声がやむ。
その事に安堵していれば、ナルの厳しい声が聞こえた。
「ぼーさん、祈祷は」
「……ああ」
本当に謎である。
なにがあればあんなふうに冷静で居られるのだろうか。
そう思いながら、ぼーさんの真言を聞いていた時である。
壁から青白い人の顔が幾つも浮かんだのである。
黒い穴の瞳と、ぽっかりと黒く開いた口から叫ぶ声。
そして手のようなものが壁からはい出てくる。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げた時、リンさんの指笛が鳴り顔が消える。
「……結衣!麻衣!」
「う……うん!」
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
あたしたちは九字を切り、ジョンは聖水を撒いて、真砂子は念仏を唱える。
すると顔は消えていくのだが、また浮かび上がってくるのだ。
「キリがないわよ。消しても消しても次々と……」
「……でも……やらなきゃ」
全員疲れが見え始めていた。
その時、風が吹いたような気がしたのと同時にあたりが赤い光が流れていく。
「赤い光……ぼーさんの……?」
ぼーさんを見ると、彼は独鈷杵を構えているところだった。