第8章 呪いの家
「……ね、綾子」
「ん?」
「使役霊はみんな除霊しちゃったんでしょ?」
「そのはずだけど……でも暴風雨や高波を本当に鎮られるなら浄化した霊を引き戻すのも簡単かもね」
「そんな……」
「油断はできないわよ。一応『神様』なんだから」
そんな事をされたら苦労したのが全部水の泡になってしまう。
なんて思っていると、あたしと麻衣の服を身につけている真砂子が辺りを見渡して呟いた。
「……大丈夫。少なくとも今はいませんわ。相変わらず霊場の気配はしますけど……とても空虚な霊場」
その後、あたしたちは『おこぶさま』が祀られている祠を前に立った。
夢の中では歪んでいたが、今は現実ではちゃんと見える。
「はじめよう」
ナルの言葉に息を飲む。
そしてぼーさんは溜息を吐き出しながら、指を組んだ。
「──オンハバハバキウタサバタルマ サバサバキツドカン オンダタガト ナウベバヤソワカ」
ぼーさんが真言を唱える。
すると何処からか低く短い音が聞こえてきた。
壁の方からしたような気がして振り返るが、ただの岩の壁しかない。
(気の所為……?)
そう思ったが、ぼーさんの唱える真言の間にまた音が聞こえてきた。
「……何か、聞こえなかった?」
綾子がそう呟く。
どうやらあたしだけが聞こえてるわけじゃないらしい。
「だよね。何の音──」
徐々にあの音が強くなる。
短く低い音が聞こえだし、その音はまるで心音。
「……なに、これ……」
「……これ……心臓の音……?」
「きゃ!」
真砂子が短い悲鳴をあげた。
どうしたのかと聞く前に、真砂子が壁を見ながら呟く。
「壁が……」
壁を見つめてからあたしは息を飲む。
壁が微かにだが動いてるような気がしたのだ。
まるで脈を打っているかのような動きであり、それを見ていると麻衣が岩に手を伸ばした。
「麻衣、やめて……」
「麻衣……」
岩に触れた麻衣はすぐさま手をどかした。
そして次は遠くから呼吸音が聞こえてくる。
「な……なによ。今度は呼吸音?まるで洞窟が生きてるみたいじゃない!」
綾子の言う通りである。
まるで洞窟が生きているような感覚であった。
「滝川さん!」
突然安原さんが叫んだ。
「入口がしまっていきます!」