第8章 呪いの家
「あるけど?それだけじゃなくて?なんですよ」
「「んー」」
あたしと麻衣は顔を見合せてからニヤつく。
「結衣っ、麻衣っ」
「あっ。ほらー呼び捨てにしたー!」
「真砂子、あたし達を呼び捨てにしてるー!」
「……ご不満?あなた達だってしてますでしょ」
「うん。だからもっと呼んで♡」
「もっと呼ぶ捨てにしてくれたら嬉しいな。あたしと麻衣ね、呼び捨てにされるの嬉しいの」
「それだけ親しい気がするでしょ?」
あたしは名前を呼ばれるのが好き。
苗字を呼ばれるのはなんだか固い気がするから。
だからリンさんがあたしの名前を呼んでくれるのは凄く嬉しかった。
「……そうですかしら」
「真砂子はずーっと、あたしと結衣を苗字で呼んでたでしょ?それを最近、時々呼び捨てにするようになったじゃない?その気持ちの変化がうれしい」
「……馴れ合ったわけじゃございませんわよ。同病相憐れむというやつですわ」
「同病?」
「麻衣とはお互い大変な人を選びましたわね……」
おや……とあたしは笑みを浮かべる。
「あたくし、起きてきたナルを見て『どうしてこの人なんだろう』って自分が可哀想になりましたの。中身から言えば滝川さんたちのほうが上ですわよ。ずっと話も簡単ですのに……仕方ないと言うべきかしら」
「ナントカは異なものっていうし──」
「君たちは趣味が悪いのを選んだね」
「あら、結衣も人のことは言えませんわよ?滝川さんはあたしたちより年上で、女の人の経験をありそう。かなり難しそうだし趣味がよくないですわ」
それを言われるとあたしは黙るしかない。
ぼーさんはあたしより九つ年上。
きっと女性経験もあって、ひょっとしたら好きな人だっているかもしれない。
なんとも難しい人を選んだものだと思った。
「三人揃って、大変な人たちを選んだね……」
「ですわね」
「ホント」
三人揃って溜息を吐き出し、クフクスと笑いあった。
干潮を待ってから、あたしたちは洞窟へと向かった。
着いてきたあたし達をナルは不愉快そうに見てくるが、それを無視して洞窟へと向かう。
ぼーさんも時折、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てくる。
まるで『帰れ』と言わんばかりであるから、それも無視してしまう。