第8章 呪いの家
「全国六十六箇所の霊場をまわる行脚僧のこと。写経した法華経って経典を一部ずつ納めることから『六十六部』とか『六部』とかいう。んで諸国を彷徨く行脚僧のこともそう呼ぶようになった。つまり『マレビト』だな」
法生の説明に双子は頷きながら理解した。
そんなものがあるとは思っていなかったが、それもまた『マレビト』なのかと首を斜めにして目を瞑る。
(『マレビト』って結構いるんだなぁ)
なんて思っていれば、安原が『そうか!』と突然言葉を発した。
「ど、どしたの?」
安原は慌てて畳の上に並べていた資料を引っ掻き回す。
なにかを探しているのだろうが、それを結衣は驚いたような眼差しで見た。
「『六部塚』についての伝承ですよ。どこかに──……これだ!」
安原が見せてきた資料には『六部塚』という文字があった。
「何時のことだかは書いてありませんが──昔、この辺りで飢饉があって村人が一揆をおこしたんです。けれど結局は鎮圧されてしまうんですよね。その時に首謀者を差し出せば村人の命は助けてやると言われて、村人は首謀者を引き渡してしまうんです。首謀者は逃げ出すんですけど、『六部塚』で追っ手に捕まり、その場で首を切られてしまう」
ふと結衣はある事を思い出した。
麻衣が一人で夢を見た時に、追っ手に追われていたと話していたことを。
もしかしたらあの夢がこの事ではないだろうかと麻衣を見た。
「それ以来村に疫病が流行ったり、おかしなことが続いたので首謀者の祟りだってことになったんです。それで『六部塚』の隣に墓を建てるんですが、変事は少しもやまない。結局そこに寺を建て、手厚く墓を祀るとようやく怪異が鎮まった……とあります」
「『六部塚』の隣って……ここのことじゃないの?」
「まだありますよ。やはり一揆の首謀者が『六部塚』の近くで首をはねられた。墓を手厚く葬ったが、その墓に悪戯すると首に妙なできものができ、やがてそこから腐って首が落ちるという」
誰もが葉月のことを思い浮かべた。
彼女の首には妙なできものが出来て爛れていた。
「郷土史によると、このあたりで一揆が起こったのは一度だけですね。文久二年。つまり一八六二年にこのあたりで一揆がおこり、その首謀者五人が断首されたとあります」