第8章 呪いの家
「昔は村というのは閉鎖社会だったわけです。村人がみんな親戚でご近所さんみたいなね。たとえばそこに諸国をまわっている行商人がきたとします。彼は村人とは地縁・血縁的に何の関係もない。村人とはまったく異なったヒト──すなわち『異人』です。で、その『異人』を殺したという昔話が各地に残っていまして、これを『異人殺し』と分類するわけです」
安原の言葉は難しい。
結衣は首を傾げながら話を聞いていたが、所々しか理解出来ていない。
ここにナルがいれば『勉強しろ』と言われるだろう。
「しかも『異人殺し』と呼ばれる昔話の場合はもっと『異人』の範囲が狭くてですね。所謂『マレビト』が殺されるのが常なんですが──」
「まっ、ちょちょちょちょい待って!」
「同じくちょっと待って安原さん!」
双子が待ったをかける。
異人まではわかっていたが、双子は『マレビト』は分からない。
ここで待ったをかけなければ、これからの話が理解できないと思ったのである。
「その『マレビト』ってなんなの?」
「『異人』とはまた違うの?」
「これは失礼。『マレビト』というのは折口信夫の用語で──ってそれはいいか。『マレビト』は『来訪神』つまり来訪する神のことですね。どこから村人へやってきて村人を祝福したり訓戒を垂れたりする。これが拡大されて同じようによそから村へ来て神の代理をする人のことを『マレビト』と呼ぶんです。『異人』とはまた違いますね」
「代理ってことは……祝福とかクンカイとかその人がするわけ?神様みたいに?」
「ですね。それに超自然的な力──それこそ神様仏様や精霊みたいなものと上手く付き合える人が普通の人に出来ないことをしていくんです。予言や豊作祈願、雨を降らせたり狐を落としたり。あるいは妖怪退治や怨霊の除霊や」
「「えっ」」
安原の言葉に双子の言葉が重なる。
「んじゃ、あたしたちも『マレビト』ってこと?」
「『よそもの』だし、悪霊退治とかもするから」
「そう!そうなんですよ。つまりあっちこっちを渡り歩く巫女とか坊主とかそういう人たちを『マレビト』と言ったんです。そういう『マレビト』を殺すという昔話のパターンが日本にはあって、それを『異人殺し』の民話と呼ぶんです」