第8章 呪いの家
「その前には本家筋の一家が住んでいたんですが、金沢の分家が移ってくる五年ほど前に絶えてしまってるんです。しかもですね、本家がここに来て最初の死者が出たのが安政三年。それ以前はこの土地に吉見家というのはいなかったようなんです。その前は藤迫という家のものだったんですが……この藤迫家が安政元年に途絶しています。で、住職を拝みたおして藤迫家の過去帳をコピーさせてもらいました。残念ながら二代分しか残っていないそうですが」
「えらいっ!」
「でしょ?」
安原という男は凄いな……と結衣は苦笑を浮かべる。
一人でそこまで調べあげるとは大したものであり、真似できるものでは無い。
「……つまりこの場所のもとの持ち主だった藤迫家が変事で絶えて、その後に入った吉見本家が四代で絶えて。で、いまの分家一家がその後に入ってきたと。なるほど場所か……」
「ね?それでこの辺りの歴史とか伝説を調べてみたんですよ」
安原はリュックから大量の資料を取り出した。
とてつもない量に誰もが驚愕してしまう。
「これだけのもんを一日で調べたのか!?金沢まで往復しつつ!?」
「ぼく要領がいいですからね。図書館で新聞を閲覧するより先に何をしたと思います?」
「な、なに?」
「暇そうな学生風の女の子にバイトを持ちかけたんでーす」
安原の言葉に双子と法生は唖然とした。
まさかそんなことをしていたとは露とも知らず、一人で調べあげたのだと思っていたのだから。
「急ごうと思ったら人海戦術しかないでしょ?で、金沢で一人コピー要員を確保しまして、こっちに残した子と連絡を取りつつこれだけの資料を集めたわけです。そういうわけで、バイト代は渋谷サイキック・リサーチから出ますよね?」
安原の言葉にリンが珍しく笑っていた。
「出しましょう」
「あー、良かった!そうだ。調べてるうちにちょっと面白い話を聞きましたよ。よくある『異人殺し』の民話なんですけどね」
「いじん……ごろし?」
双子は揃って首を傾げる。
聞いた事のないものであると思っていれば、安原が資料を引っ張り出して説明し始めた。
「『異人殺し』──この場合の異人は『よそもの』みたいな意味でしょうね」
「よそもの……」