第8章 呪いの家
その言葉に結衣は泣き出しそうになる。
犠牲者が出てしまったこと、助けられなかったことに悔しさと辛さと色んな感情で今にも泣き出しそうになった。
「あなたを突き落としたのは誰です?」
「分かりません……とても……怖かった……」
「どんなことでもいい。突き落とした人のことを思い出せませんか?」
「……いいえ……でも、知らないですんでよかった」
「何故です?」
「あそこへは家族しかいきません。わたしを突き落としたのが家族なら知りたくありません……」
真砂子……いや、奈央の言葉に結衣と法生は顔を見合せてしまう。
そんな時、真砂子が悲鳴に近い声を上げた。
「どうしました!?」
「だれかが……ひっぱるんです」
「ひっぱる?」
「これは……なに?怖い。お願いだから引っ張らないで、怖い。そっちには行きたくない……やめて、化け物……!助けて!」
一際大きい声で叫んだ途端、真砂子の身体が崩れ落ちる。
どうやら憑依していた奈央が体から落ちたようで、気怠げに真砂子が瞼を押し上げた。
「……あたくし、呼べたようですわね」
そんな真砂子を双子が支える。
「やっぱり奈央さん殺されたんだ……問題は誰が犯人かってことね」
「……少なくとも靖高さんは違いますです。病院に運ばれた時奈央さんもいてましたから。おばあさんも歩いたりはでけへんそうですし……」
「子供じゃ無理だしね」
「はずみをつければできなくもない」
「そうかもしれないけど……でもどっちかというと、怪しいのは他の人達じゃない?まだ憑依されてる人がいるんだわ」
「そうとは限らねぇな。すでに除霊は済んでいて、自分のやった事を忘れている可能性もある。もしやったのが陽子さんだったとしたら……?」
「……本人も知らない間に大変なことをしちゃった可能性があるってことだよね……」
それがもし陽子だとしたら、奈央の気持ちが分かると結衣は俯いた。
誰しも家族から殺されたなんて思いたくは無い。
(もし犯人が分かったとして、除霊して正気に戻った時にどう伝えればいいってわけ?)
そして気になることがある。
奈央が『化け物』と叫んだことである。
アレは一体なんだろうと結衣はただ考えることしか出来なかった。