第8章 呪いの家
ライターもマッチもない。
火の元になるものはないのに、陽子の手のひらで護符は燃えてしまった。
その事に結衣は目を見張ってしまう。
「綾子、七縛」
「OK」
綾子は九字を切るときの指を作り何かを唱え始める。
「な……なに?」
「なんでもありませんよ。おれたちはちょいと陽子さんに用があるだけでして。──ジョン」
無言でジョンは聖水を取り出す。
その様子を見て双子は少し下がり、ジョンはそれを見てから陽子の前に立った。
「──我はキリストの御名において汝に厳命いたす 身体のいかなる場所に身を潜めていようとその姿をあらわし 汝が占有する身体より逃げざるべしはなれるべし いずこに潜みおろうとはなれ 神に捧げたる身体をもはや求めるなかれ 父と子と聖霊の御名により聖なる身体は汝に禁じられたものすべし イン・プリンシピオ」
ジョンの祈祷の言葉が終わると陽子は目や口を勢いよく開き、そのままその場に座り込んだ。
「よ、陽子さん……?」
「陽子さん……」
双子が何度か呼びかけると、落ち着いた表情を浮かべた陽子が顔を上げた。
どこか戸惑った表情で結衣たちを見ている。
「──なに……?いったい、なにが……」
憑依した霊は落とせたようだ。
その事に全員が安堵した。
「もうだいじょうぶです。これを身につけてはなさんといてください」
ジョンは小さな十字架を陽子に渡すが、陽子は戸惑いながらそれを受け取ってジョンを見上げた。
「あなたがたは……?」
陽子は憑依されていた間の記憶がなかった。
「……まさか、あたしたちが来てるところから覚えてないなんてね」
「陽子さん?」
「うん。ビックリしたよね」
「そうねぇ。若旦那が事情を説明してる間中ポカンとしてたもんねぇ」
陽子は一切の記憶がなかった。
結衣達が来たところまで記憶がなく、その間ずっと憑依されたいたのである。
「まさか、あたしたちが来た時から憑依されてたなんて……」
「ね。あ、そういえばあの七縛ってなに?」
「あ、それあたしも気になってた。それに陽子さんに向かって九字切ってたけどよかったの?」
「んー?あれは不動金縛りってやつ。ちょっと人を無気力にして身動きしにくくするのよ」
「へー……」