第8章 呪いの家
「……退魔法というのは誰がやっても効果があるってもんじゃない。お前らは才能があるよ、拝み屋のな。だから二度とするな。二度と人に向かって九字を切るような状況をつくるんじゃない」
真剣なお叱りだった。
結衣と麻衣は顔を見合せてから、法生に頭を下げた。
「うん……ごめん……」
「ごめんなさい……」
叱られたせいが少ししょげた反応を見せる双子に法生はまた溜息を吐き出す。
「で?取り敢えずチビさんたちに護符は持たせたんだな?ほかに受け取りを拒否した人はいるか?」
「そうねえ、若旦那にはさっき渡したし……あとは奈央さんね。っていってもいなかったからだけど」
「どこに行ったか聞いたか?」
「それが、どなたも行先を聞いていないらしくて」
「……そうか」
ふと、双子は思い出した。
陽子が受け取りを拒否していた事を。
「あ、そういえば陽子さんが」
麻衣がその事を伝えようとした時、それを遮るかのように襖が勢いよく開いた。
何事かと思ってそちらへと視線を向けると、怒りの形相を浮かべた陽子が飛び込むように入ってきたのである。
「陽子さん……」
「子供たちに怪我をさせたのは誰?克己にあんなことをしたのを誰なの!おまけに変なものを持たせて」
「変なもの?」
「あのやくたいもない護符のことよ。さっさと外してちょうだい!」
陽子は明らかに様子がおかしい。
双子は戸惑ったようにしながらも、もしかしたら彼女もなにかに憑依されているのではと思った。
「あの子は外せと言っても外さないのよ。それに葉月にも何かしたでしょう。和歌子にも靖高にも栄次郎にも!なにからなにまで余計なことを!」
叫んだ陽子は息切れを起こしていた。
まるで獣の咆哮を聞いているようで、思わず結衣は怯んでしまった。
だが法生は落ち着いた様子で護符を取り出した。
「……これは身を守る為に必要なものなんです。陽子さん、持ってますか」
「……そんなもの、役になんか立たないわ」
「そんなことはないですよ。どうぞ」
法生が差し出した護符を、陽子は受け取った。
その事に双子は安堵したが、それもつかの間である。
陽子が手にした護符は何故か燃えたのだ。
「……ほら、こんなもの全然なんでもないじゃないの」