第8章 呪いの家
「……この家の人達が貴方になにをしたの?」
「さてな」
「その子から離れなさい」
「子供が死ねば用はない。そうなったら離れてやる」
克己に憑依したものは走り出した。
走り出した先は生垣があるが、その先は海である。
子供が飛び込めばひとたまりも無い。
「まっ……!!」
「待って克己くん!」
克己は二人の制止を聞かずに走り出している。
このままでは克己は海に飛び込んでしまい、最悪の場合死に至る。
それだけは駄目だ、それだけは避けたい。
(でもあたしが九字を切ったら克己くんはどうなる!?)
迷いが出てくる。
九字を切ることで克己の身に何かあれば、どうするという恐怖心が囁いてくる。
『一度壺に憑いた霊を落としたことはあるが、壺も粉々に──』
法生の言葉が蘇る。
だがあれは法生が霊能者だからそうなったわけで、自分がした程度では何も起こらない可能性はある。
(でも何も起きないという保証もない!)
克己の手が扉に触れる。
その先は海。
駄目だ。
双子は同時にそう思い、九字を切る指を作って同時に叫んだ。
「「臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前!」」
九字を切った瞬間、克己と和歌子が叫び声を上げた。
そして克己からなにかが飛び出して双子の頬を掠めて消えた。
「……今の……」
結衣は唖然としながら、何かが消えた方向を見た時であった。
子供たちが火をつけたように泣き出したのである。
その後、子供たちが『背中が痛い』と泣くため確認をした。
和歌子と克己の背中には双子が九字を切った形の火膨れが出来ていたのである。
そして和歌子の言葉が気になった結衣は車のことを伝えて確認をしてもらうと、ブレーキオイルが漏れていたそうだ。
もし誰か気付かずに乗っていたら……。
「──あれほど人に向けるなと言っておいただろうが!」
ベースでは法生の怒号が響いていた。
彼は吉見家に戻るなり、双子が人に法力を向けたことを聞いて怒ったのである。
「「だって」」
「だってじゃない!」
あれしか方法がなかった。
双子はそう言いだけに頬をふくらませてそっぽを向いてしまう。
まるで幼子が不貞腐れたかのようなその態度に法生は溜息を吐き出した。