第8章 呪いの家
「そんなことするなっ!」
「だったら車のこと教えて。でなきゃ和歌子ちゃんに護符を貼り付けて取れないようにしちゃうから」
「そんなことしたら、ぼく、うみにとびこむからな!」
克己の言葉に双子は目を見開かせた。
子供が言うには少々過激すぎると思いながら、眉を寄せて少し切羽詰まった声で聞く。
「……克己くん。何言ってるかわかってるの?」
「わかってるよ。ぼくがしんだらみーんなこまるんだから」
「死ぬの苦しいと思うよ」
「克己くんが想像するよりも苦しいよ」
「しってるよ、くるしかったらざまあみろだもん」
「……誰にざまあみろなの?」
「みんな」
これは克己ではない。
双子は直ぐにわかり、どうしようかと頬に汗を流す。
除霊できる力なんて持っていない二人は、どうするべきか分からなかった。
法生がいれば……。
結衣は無意識そう思ってしまった。
「……克己くん。君、本当は誰なの?克己くんじゃないでしょ?」
「本当の克己くんは護符を怖がったりしないもんね」
「こわくないよ」
「嘘よ。怖いんでしょ?だから護符を持つのも嫌なんだよね」
双子はわざと克己を煽る。
すると無表情だった克己の表情が代わり、気味の悪い笑みを浮かべた。
ぞっとするような笑み。
結衣は思わず腕を抑えて背筋が凍るような感覚を押さえ込もうとした。
「ころしてやる。おまえたちもこの家の連中も、この子供も」
何とかしなければ。
結衣は無意識に指を九字を切るときの形にしたが、その時法生の言葉が浮かんだ。
『法力てえのは直接人に向けちゃいけないんだ。危険だからな』
親友に向けたことがあると言われた時、『二度とするな』と静かに怒られた。
その言葉が浮かんでしまって、立ちすくんでしまう。
「海に飛び込むくらいは慈悲のうちだよ、楽なもんだ。首を切られるものにくらべたら」
「首を……切られた?」
『二度とすんなよ。結衣と麻衣程度だからなにもおこらずにすんだんだぞ』
そう、自分たち程度だから何も起こらずにすんだ。
だが本当に大丈夫という確証がなく、結衣は息を飲んで自分の手を見る。
この手で九字を切った時、克己はどうなるか分からない不安が押し寄せてくる。