第8章 呪いの家
「仕事の依頼だってガンガン入るわけじゃないし、その殆ども断っちまうし、依頼料も志納ってやつだろう?儲かってるとは思えないし、どーゆー金銭感覚してんだよナル坊は」
「でも、ほら。お父さんが大学教授なんでしょー?お金持ちなんじゃ……」
「大学教授なんてそんなに実入りのいい商売じゃないぞ」
「じゃあ、元々お金持ちとか──」
わいわいと話しているとドアベルが鳴る。
依頼人かなと思って振り返ると、夏というのに黒ずくめのスーツ姿のナルが帰ってきていた。
「あ、ナル。おかえりー」
「おかえりー」
「よう。お邪魔してるよ」
挨拶をしたり出迎えの言葉を述べたのだが、ナルはそれを冷たい眼差しで睨むと無言で所長室へと引っ込んだ。
これはたいそう機嫌が悪い。
そう思いながら冷たい麦茶を一口飲んでいると、綾子がヒソヒソと話しかけてくる。
「……なんか、何時にもまして機嫌悪くない?」
「帰ってきたあとはいつもあんな感じだよ」
「暫く所長室からも出てこないしね」
何故かは知らないが、ナルは旅行から帰ってくると決まって機嫌がすこぶる悪い。
話しかけても無視するし暫くは所長室からも出てこないし、出てきてもお茶を頼む時ぐらいである。
理由は分からない。
聞いても話してくれないから……と思っていると、再びドアベルが鳴って来客を知らせる。
「おっと。いらっしゃいませ」
麻衣が声をかけて、振り返るとそこには四、五歳ぐらいの年齢の女の子と大学生ぐらいの青年が立っていた。
「……あの、こちらは……その、いわゆる霊能者さんですよね」
どうやら依頼が舞い込んできたようだ。
「──吉見彰文といいます。こちらは姪の葉月です。診ていただきたいのはこの子なんですが」
「病気の治療なら病院にいくべきだと思いますが」
所長室から引っ張り出したナルは相変わらず不機嫌そう。
そんな彼の言葉に、葉月ちゃんは身体を跳ねさせると彰文さんの服を引っ張る。
「びょういん、きらい」
「大丈夫。病院には行かないからね」
「ナルちゃんよ、診るぐらい良いじゃねぇか。そんな大した手間じゃねえんだし」
「そうだよ。せっかく来てくれたんだから、ちょっとぐらい診てあげなよ」