第7章 血ぬられた迷宮
あたし達の言葉に真砂子は悲しげに笑う。
そして両手で顔を覆うと、静かに泣き出してしまった。
「真砂子」
「真砂子……」
真砂子の手を握る。
彼女の体は小さく震えていて、時折嗚咽のような声が漏れていた。
「……これは夢なのね。あたくし……ひょっとしたら死んでいるのかもしれませんわ。自分では分からないだけなのかも」
「……そんなこといっちゃダメ!」
どうにかしなければ。
真砂子を励ますようななにかを……と思った時、あたしはある物を思い出した。
「鍵……」
ポツリと呟けば麻衣は『それだ!』と言いたげな表情になり、あたしと一緒にズボンのポケットをまさぐる。
「……結衣、麻衣?」
「これ、持ってて!」
「え?」
「お守り!」
あたしと麻衣は真砂子の手のひらに二つの鍵を落とす。
「……お守り?」
「あたしと麻衣のお守りなの。昔、お父さんとお母さんと麻衣と住んでた時の家の鍵なの」
お父さんとお母さんが住んでて、あたしと麻衣が生まれた家。
お父さんが死んでしまった時、お母さんがお守り代わりに持っていたのだ。
(あたしのはお母さんの鍵だけど、麻衣のはお父さんの鍵)
あたし達に残された形見でもある鍵。
あたし達がお守りとしてずっと持っている鍵。
「なにか物があるとあたし達のこと信じてられるでしょ?自分のことも信じてられるでしょ?」
「真砂子は死んでないし、夢を見てるんでもないんだよ。ちゃんと二つの鍵の感触がするでしょう?」
「みんな、一生懸命入口を探してくるからすぐ見つかるよ。絶対助けにくる。信じて待ってて」
真砂子は二つの鍵を強く握っていた。
そして不安げにあたし達を見てくる。
「必ず来るわね?」
「うん、必ず」
「必ず来るよ」
「……あの男が来ますの」
「……浦戸?」
「ええ」
真砂子は怖がったように表情を少し強ばらせた。
「他にも男の霊が二人あたくしを殺しにくるの。必死に『こないで』って念じているの。それに幻が……たくさんの人が殺されて……とても怖い」
怖がる真砂子を安心させなきゃ。
そう思った時視界がぼんやりとしてきて、すぐに目が覚めるんだと気付いた。
「真砂子!諦めちゃダメだよ!」
「絶対に助けにくるから!待ってて!!」