第7章 血ぬられた迷宮
そちらへと視線を向けると、そこには夢の中でしか見れない頬笑みを浮かべているナルがいた。
「──……ナ……」
麻衣が喜んだように声を上げそうになり、自分で頬を叩いていた。
それを見ながら苦笑を浮かべてしまう。
「……あ、あの。真砂子……知らない?」
「何処にいるか、ナルは分かる……?」
恐る恐ると聞くと、ナルはある場所を指さす。
そこには一つの扉がある。
「──無事……だよね?」
麻衣の問にナルは優しく微笑むだけ。
すると辺りは暗闇に飲み込まれはじめ、ナルはその闇に溶けるように消えてしまった。
「あ!」
「ナル!」
ナルが消え、辺りにいた鬼火も居なくなっていた。
ただ見えるのはナルが指さしていた扉だけ。
「……この扉、見覚えがあるような」
「結衣も?」
「……開けてみるよ」
「うん」
ドアノブを捻り、扉を開ける。
ゆっくりと覗くように中を見てから、あたしは目を見開かせた。
タイル張りの部屋があったのだ。
そこには手術代のような机、そして浴槽があった。
「あの夢の……」
「あ……!麻衣!」
あたしは手術代の奥で丸く座っている誰かを見つけた。
それは間違いなく真砂子だ。
「真砂子!?」
慌てて二人で駆け寄る。
真砂子は膝を抱えて、丸くなって隅に小さくなっていた。
「真砂子?」
「まさ、真砂子……?」
「真砂子」
何度か呼びかけると、真砂子の顔が上がる。
「……結衣……麻衣……?」
不安げな表情で名前を呼ぶ真砂子に、あたしは安堵した。
「良かった、無事で……ケガはない?大丈夫?」
「ええ……でも、怖い思念が沢山残ってて……とても疲れますわ」
その表情と声はとても不安げで顔色も悪かった。
「もう少しだけ、もう少しだけ待ってて!」
「もう少しだけ待っててね!絶対に助けにくるから!」
「……さっきまで、ここにいたんですのよ。ナルが。ここで励ましてくれたんですの。とても素敵に笑うんですのよ」
ナルがいたんだ。
あたしと麻衣は顔を見合わせてから真砂子を見る。
「おかしいでしょう?」
きっとナルが守ってくれていたのだ。
ここで一人になっている真砂子を守ってくれていた。
「……良かったね」
「うん、良かったね……」