第7章 血ぬられた迷宮
後悔が押し寄せる。
もっとちゃんと真砂子を引き止めていれば、こんな事にならなかったのにと。
もし真砂子に何かあればと恐怖さえ押し寄せてくる。
「どうする。また壁をブチ壊すか?」
「それしか……」
コンコン……とノックの音が聞こえる。
窓の方へと視線を向ければ、そこには森さんと安原さんの姿があった。
「──聞き込みから帰ったら、撤収するっていうメッセージがホテルに入ってたんで手伝おうと思って来たんですけど。まさかこんな事になってるとは……」
「それで?なにか分かりましたか」
「あ、はい」
ナルは至って冷静だった。
仲間が一人行方不明になっていても、冷静でいられるのは凄いなと思ってしまう。
「例の……慈善病院の付属施設が閉鎖された時、そこで介助者の手伝いをしてたって人を見つけました」
「──って、明治時代だろ、いくつだよ?」
「ええ。だからかなりのご高齢でしたけど、昔のことはよく覚えてましたよ。当時は十歳そこそこだったそうですけど」
『施設を出たもんはおった間に貰った分の金をもどさにゃならん。そんでも金をもっとらんもんばかりだで、夜逃げやらするもんが多かっただねぇ。捕まっちまったら旦那さんの山荘連れてかれて、そのまんま戻ってこんもんもおったで。みんな、あそこを怖がっとったよ』
「……なるほど。こちらの推測もあながち外れではなさそうだな」
施設の人間まで犠牲にしている。
その事を思い出すと、あたしは恐怖が押し寄せてきて身体が震え始めた。
それは麻衣も同じだった。
「やだ……どうしよう。まさか真砂子まで」
「どうしよう……真砂子までが、なにかあったら……」
「大丈夫だって!とにかく捜そう!」
震え始め取り乱すあたしと麻衣の肩を、綾子が強く握ってから言葉をかけてくる。
それでも安堵出来ていないあたしの両頬を、ぼーさんが包み込んだ。
「そーよう。あたいたちがしっかりせんで、どーすんの。んー?」
「う……」
「返事は」
「……うぃ」
「ちゅーわけで、どっから壊す?」
ぼーさんがそう尋ねると、ナルが見取り図を押し付ける。
「とになく手近な空白部分からかかろう。安原さん、まどか、手伝ってください。リン、きてくれ」
「ナルちゃん?」
「原さんの荷物を見てくる。先に行っててくれ」