第7章 血ぬられた迷宮
「ヤツが家に縛られて逃げられないなら、家ごと燃やしちまえばいい。炎によって浄化出来ないものはないからな」
「焼け跡に残っちゃったりしたらどーすんの!?」
「幽霊とかじゃないんだよね!?化け物なんだよね!?焼け跡に残りそうじゃない!?」
そんなのが出てきたら大騒ぎだろう。
そう思って叫ぶと、あたしの頭をぼーさんが撫でる。
「ないだろうな。ヤツが拘ってんの場所じゃなくて家そのものだからさ」
「警察を呼んで家を解体すれば失踪者は発見できる。それはぼくらの仕事じゃない」
「で、逃げて帰るわけか」
「珍しい、ナルが逃げるなんて」
絶対に解決する、それか逃げるなんてことはプライドが許さなさそうなのに。
なんて思っているとナルは溜息を吐き出した。
「逃げるんじゃない。ぼくらの仕事は終了したんだ」
「……は?」
「ぼくがここに来たのは大橋さんの依頼を受けたからじゃない。依頼自体はさして興味を引かれなかったし、現在もさほど面白い事件とは思えない。ぼくはまどかの依頼を受けたんだ」
「……も、森さんの……?」
「そうだ」
『南心霊調査会ってところが、オリヴァー・デイヴィス博士の偽物を連れて歩いているらしいのよね。ちょっと調べてみてほしいんだけどー♡』
説明をされたあたし達はポカンとしていた。
まさかの依頼内容は偽物を調べるということであり、確かに既に調査は終了している。
「ぼくらの仕事はいま終了した。危険をおかしてここに残る理由がない。引き上げる」
「……たっ……謀ったな、てめー!」
麻衣がナルを睨んでいた。
だがナルは平然とした表情である。
「戦略上の秘密というやつだ。この中に腹芸の出来ない人間がいるだろう」
それはあたしと麻衣の事を言っているのだろうか。
少し苛立ちを覚えていると、麻衣が隣でキレて叫んだ。
「えーえ!そーですとも!あたしはナルと違って人を騙すのが大っ嫌いだからね!そーゆーわけで」
麻衣は五十嵐先生の方を振り返る。
この後言う言葉は何となく想像出来ているので、あたしは苦笑を浮かべた。
「ごめんなさい、あたしウソをついてました!うちの所長はニセモノです」
「麻衣!」
「ほんとはこいつが渋谷一也なんです。ねー?」