第7章 血ぬられた迷宮
ぼーさんの言葉で、森さんの話を思い出した。
『鉦幸氏はすごく潔癖な人で、工員の給料を誤魔化してた職員一家を叩きだしたって──』
潔癖で、嘘や盗みをした人間に容赦がない。
確かに鉦幸氏とヴラドは一致するところがある。
「鉦幸が外遊していたころ、既に『吸血鬼』は出版されていた。彼が知っていたとしても不思議はない。それともう一つ。ヴラドとよく混同される人物にエルジェベット・バートリというハンガリーの伯爵夫人がいる。彼女は自分の容色が衰えることを恐れ、若い女性を殺しては搾り取った血を浴槽に満たし……その中に身体を浸した。そうすることで美貌が保たれると信じていたんだ」
血の浴槽。
そういえば、あの夢の中でタイル張りの部屋に血まみれの浴槽があったのを思い出す。
「鉦幸がこの話を知っていた可能性は高い。彼は病弱だった自分の身体を恨めしく思っていただろう。エルジェベットのように若い人間の血によって健康を保てると思ったのかもしれない」
「……じゃあ、しょっちゅう女中さんが変わっていたっていうのは浦戸が……」
「おそらくそうだろう」
麻衣に憑いていて、あたしと麻衣に夢を見せた女中さんは浦戸のその健康を保つ為に殺されたのだ。
何人も浦戸のせいで……そのことを思うと怒りが込み上げてきた。
自分の為に何人もの人を殺している。
なんて自分勝手な人間なんだろう……と。
「なるほどな……あの紙幣の文字の意味も分かった。『ここに来た者は皆死んでいる。浦戸に殺されたりと聞く。逃げよ。』」
殺されている。
その言葉に息が詰まるような、なんとも言えない感情が出てくる。
「……あの隠し部屋にいた人が次に来る誰かに残したメッセージってわけね……」
「──そやけど、あのお金が入ってたコートは病院の施設の支給品ですやろ?女中さんが持ってはるのはヘンと違いますか?それに女中さんを隠し部屋に住まわせはるゆうのんも妙です」
「……まさか、施設の人間まで……?」
怒りが爆発しそうになる。
浦戸もとい、鉦幸は自分の為に女中だけでなく施設の人間まで殺していたのだ。
「──し……信じられない……っ。自分が助かりたいために人を殺すなんて……!」
「しかも……女中さんや施設の人を殺してたなんて……」