第7章 血ぬられた迷宮
「もしかして、いま鈴木さんが書いたの……?」
「──そうか。浦戸ってのはヴラドのことだったのか……!」
不思議そうにしているあたし達を置いて、ぼーさんが何か納得したように声を上げた。
そんな彼にあたしと麻衣は首を傾げる。
「浦戸がヴラドって……」
「ヴラドって、なんなの……?浦戸のことなの?」
「……ヴラドゆうのは、吸血鬼……ドラキュラのことです」
ジョンの言葉にあたしと麻衣は目を見開かせる。
「だ、だって浦戸は鉦幸氏のペンネームでしょ?それって鉦幸氏が吸血鬼だったってこと!?」
「じゃあ、ここの霊は血を吸われて死んだ人たち!?」
「落ち着け、麻衣、結衣。ドラキュラは正確には吸血鬼じゃない」
ナルの呆れたような言葉に、双子揃って首を傾げる。
ドラキュラは正確には吸血鬼ではないとは、一体どういうことなのだろうか。
「ドラキュラが吸血鬼だというイメージは小説から来てるんだ。十九世紀に出版されたブラム・ストーカーという作家の『吸血鬼ドラキュラ』がそれだが、このドラキュラには実際にそう呼ばれていた実在したモデルがいる」
「ド……ドラキュラって本当にいたの?」
「そうだ。ただしさっきも言ったように吸血鬼じゃない。ヴラド・シェペシュという男のことだ」
「ヴラド……」
鈴木さんが書いた文字と同じ名前だ。
あたしは壁に書かれた『ヴラド』の文字を見る。
「このヴラドという男は、十五世紀に東欧のワラキア地方を統治した王だ。『ツェペシュ』というのは一般には『串刺し公』と訳される。ヴラドは潔癖にして残忍な性格で、嘘や盗みを働いた国民や自国に侵略してきた敵を容赦なく串刺しにして処刑したことからそう呼ばれたんだ」
「串刺しって……そ……そのヴラドがなんでドラキュラなわけ?」
「ヴラドの父親は『ヴラド龍公(ドラクル)』と呼ばれていた。『ドラクル』には『龍』と……もうひとつ『悪魔』の意味もある。『ドラキュラ』は『ドラクルの子』をさす。つまり……『悪魔の子』を意味するわけだ」
「悪魔の子……」
「ドラキュラって悪魔の子って意味なんだ……」
知らなかった。
ドラキュラはずっと血を吸う怪物だとばかり思っていたのだから。
「ヴラドと浦戸……か。確かにイメージが被るな。少年たちの話とさ」