第7章 血ぬられた迷宮
(これ、リンさんが……?)
なんて綺麗な音なんだろう。
そう思った時、誰かの溜息の吐き出した音が聞こえた。
(今、誰か……溜息を……?)
するとリンさんが閉ざしていた目をゆっくりと開けた。
それと同時に彼の目の前にゆらりと人の形の影が見えてきて、思わず目を見開かせる。
「ナル、日が良くない。喋らせることはできないし、そんなに長くは呼んで置けません」
ゆっくりとゆっくりと影は人の形になり、その姿にあたしは思わず口を手で抑えた。
(鈴木さん……!!)
影の形は鈴木さんだった。
つまり彼女はもう、この世の人ではないということだ。
「鈴木直子さんですね」
ナルの呼びかけに鈴木さんが頷く。
そんな彼女にあたしは口を抑えたまま、目頭が熱くなるのを感じた。
するとぼーさんがあたしの頭に手を置いて、優しく撫でてきた。
「この家には貴方の他にも人がいますね?僕らと五十嵐先生、霊能者たちの他にも人がいますね?」
鈴木さんはナルの呼び掛けに頷く。
「彼らもあなたも既に死んでいます。知っていますか?」
ナルの言葉に鈴木さんが驚いたようにこちらを振り向く。
鈴木さんは自分が死んでいることに気付いてなかったのだ。
「自分が何故死んだのか分かりますか?」
彼女は首を横に振る。
「では誰かが貴方に酷いことをしませんでしたか?」
鈴木さんは頷く。
「それは誰です。ぼくら以外の人たちですか?」
また頷いた。
「浦戸……という自分を知っていますか」
鈴木さんがビクリと体を震わせる。
そして何か叫びたげにしていて、身体を仰け反らせた。
苦しそうにしている彼女に、眉を寄せてしまう。
「知っているんですね?」
鈴木さんは首元を抑えて、何かを指さしている。
そして何かを叫ぼうとした時に破裂するようなラップ音が響いて思わず声を上げてしまった。
「ナル、限界です」
リンさんの言葉を合図にするように、何か言いたげにしていた鈴木さんはゆっくりと姿を消した。
その姿が完全に消えた時、ナルは部屋の明かりを付けたが、あたし達は壁を見て目を見開かせる。
壁には血で書かれたように文字があった。
その文字は『ヴラド』と書かれてある。
「……なに……あれ……?」
「ヴラド……?」