第7章 血ぬられた迷宮
「ところが、そう上手く行かんのよこれが。確か招魂には呼び出す霊の名前や生年月日とか細かいデータが必要なんだよな。今そんなデータが揃うのはあの三人の分だけだ。リンも言ってたろ?呼べるのは三人だけだって」
つまり、三人のうち誰か亡くなっていたら呼べるということ。
それなら呼べない方が良いと思いながら眉を下げてしまう。
「もしも死んでたとして……でしょ。そっかあ……じゃあ呼び出せない方がいいなあ」
「そうだよね。呼び出せなかったら生きてるってことになるもんね」
麻衣とあたしがそう呟くと、ぼーさんは『いい子』なんて言いながら抱き締めてくる。
そんなぼーさんに麻衣は『セクハラ』と叫び、あたしはなんとも言えずにただ小さく微笑むだけ。
ぼーさんに抱き締められると落ち着く。
最初は凄く焦ったり、顔を真っ赤にさせていたけれど今はそうじゃない。
暫くして、リンさんが包みを抱えて戻ってきた。
特に着替えはしていないけれど、道具は必要らしい。
包みを開くと箱を取り出して、中から金属製の平たい鉢や金色の太刀に香炉や燭台二つに蝋燭を二本テーブルに置く。
(どんな風に霊を呼び出すんだろう……)
リンさんは丁寧な手つきで準備をしていく。
中から抹香を取り出して香炉に入れて火をつけると、不思議な匂いがしてきた。
次に硯箱を取り出したリンさんか、あたしが手渡した水で丁寧にゆっくりと墨をすり始めた。
その途中にナルが戻ってきた。
「誰を呼びましょう」
「鈴木直子さんを。プロフィールと服を借りてきた」
ナルの手には鈴木さんのブラウスが握られている。
きっと五十嵐先生に借りたのだろう。
「没年はどうしますか」
「……失踪日の翌日……というところかな」
ナルの言葉に頷きながらリンさんは紙に何かを書いていく。
きっと名前や生年月日に没年を書いているのだろう。
書き終えた紙をリンさんは鉢に入れていた服の上に置いた。
明かりが消される。
部屋の中には二本の蝋燭の明かりだけがユラユラと揺れていた。
「始めます」
リンさんは姿勢を正すと、膝の上に太刀を載せて口を軽く開いていた。
そして次の瞬間不思議な音が聞こえた。
ホーォという音。
低くて綺麗な不思議な音は口笛のようで、そうじゃないような音だった。