第7章 血ぬられた迷宮
ナルは相変わらずの仏頂面ではあるが、何か気に食わなさそうな表情でもあった。
大橋さんとの話で何か気になったことでもあったのだろうか。
「気に入らないんだ」
「なにが」
「長いこと無人だった幽霊屋敷。建物は複雑なうえ平面図もない。そんな所に泊まり込むんだぞ」
ナルの言葉に嫌な感じがした。
確かに何も分からない上に行方不明者が出ている場所に泊まるのは気が引けてしまう。
「おっと、結構弱気な発言」
「慎重と言ってくれ。麻衣、結衣」
「はあい」
「はーい?」
「とりあえずこのあたり一帯に温度計を置いてみる。ぼーさんと行ってくれ。陽が暮れたら辞めていい。日没後は必ず誰かといるんだ。いいな?」
「う、うん」
「了解……」
珍しくナルが慎重である。
普段無いぐらいに慎重であり、少しこちらまで緊張してしまう。
「他の者も暫く日没後は一人で行動しないほうがいい。それから松崎さん、護符を書いてください。人数分と……各部屋の分と」
「おいおい。用心のしすぎじゃねえの?」
「無思慮な人間が怠惰の言い訳にするセリフだな」
ぼーさんは最初ムッとした表情だったが、直ぐに何かを思いついたのだろう。
ニヤリと嫌な笑みを浮かべている。
「……なんだ?」
「──そう。確かに用心したいたほうがいいわな。その態度、用心して常日頃から改めねーとバレるぜ。調査員のな・る・み・クン♡」
「そーよねえ。調査員にしてはエッラそーだもんねー。アタシたち所長から協力を求められてるわけだしィ?れっきとしたゲストよね」
また余計なことを……と思いながら触る神に祟りなしという。
あたしまで余計なことは言わないでおこうと、無言でぼーさんと綾子を見守る。
「やっぱ、それなりの態度で接してもらわないと」
きっと嫌味な言葉が飛ぶ。
そう思っていると、ナルは静かに椅子から立ち上がった。
「……心がけましょう。ずいぶん年上でいらっしゃることでもあるし」
ナルの言葉が恐らく綾子に突き刺さった。
そしてナルは恐怖の満面の笑みを浮かべていて、あたしは思わずその場から下がってしまう。
「……では、作業にかかりたいのですが手を貸していただけますか。松崎様、滝川様」
ブリザードが荒れ吹雪いている。
そのせいでぼーさんと綾子は凍ったように立ちすくんでいた。