第7章 血ぬられた迷宮
「部屋はこちらでよろしかったでしょうか」
「はい、ありがとうございます。あの、大橋さん。少々質問をさせていただいて宜しいですか?」
安原さんの言葉に、あたしと麻衣は驚くように彼を見る。
所長とはいえ、影武者である彼が質問出来るのだろうかと麻衣と顔を見合わせてコソコソと話す。
「安原さん出来るのかな」
「分かんない。大丈夫なのかな」
影武者である彼はSPRの人間ではない。
その手の質問が出来るのだろうかと、麻衣と二人して不安になる。
「ええ、なんでもお聞きになってください」
「ありがとうございます。それじゃ──鳴海くん。頼むね」
「はい」
どうやら最初からナルに頼むつもりだったらしい。
不安になったのは余計だったと思いながら、大橋さんが椅子に座りその目の前にナルが座るのを見守る。
「──では……依頼内容を確認させてください」
「はい。元々この建物は先生の奥様のおじいさま──先々代が建てられたものでございます。奥様も奥様のお父様……つまり先代もここにはお住いにならなかったそうです。と、いいますのも幽霊が出るという噂がありまして」
早速来たと思い、作業していた手を止めてしまう。
「それで忘れ去られた状態だったのですが、先々月この家で少年が一人行方不明になりまして……。空き家なのをいい事に近郊の若者達が出入りしていたらしいのです。この屋敷はたいへん複雑な構造になっておりますので、どこかで具合が悪くなって倒れているのではと、警察も人手を集めて捜索したのですが、発見されませんでした」
行方不明という事案は初めてである。
今までは怪奇現象や怪事件が多かったけれど、誰かが行方不明なのは無かった。
「そればかりでなく、捜索をしていた消防団の青年が姿を消したのです。その時に何人かが屋敷の中で人魂を見たとかで。実は以前増築工事をした時に、作業員が消えたという話もありまして。先代が遺言で──」
『──いいか。あの屋敷には一切手をつけるな。朽ちるに任せておけ』
「──ですが、ここで二人行方不明になったとなると悪い噂も立ちますし、かといってこれ以上の被害が出ても……それで霊能者の方にお願いしてみようということになったのです」
「……なるほど。わりに古い建物のようですが、いつごろの建築ですか?」