第7章 血ぬられた迷宮
あのナルに『この子』なんて言えるのは、森さんぐらいだろうと唖然としてしまう。
「まどか!黙っていただけますか。話が進まない」
「あら、そうね。だったら口の利き方に気をつけてね♡」
この中では森さんが一番強い。
そう確信した場面であった。
「……ナルは派手な舞台を嫌うのね。さっきも言った通り、今回の事件も断るつもりだったらしいけど、わたしの事情で引き受けてもらったの。皆さんにはご迷惑だと思うけれど、協力してください」
頭を下げられて、あたし達も慌てて頭を下げる。
本当に森さんは強いし、何となく逆らってはいけないような相手な気がした。
「あれ?でもそしたらナルはどういう立場の人になるわけ?」
「安原さんを所長にするんでしょう?」
「……ぼくはここの単なる調査員にということになる」
そんな無茶な。
誰もがそう思ったはずである。
(こんな偉そうで上から目線のナルシストが、単なる調査員なんて無理があるでしょ!)
こう思ったのはあたしだけではないはず。
ナルの性格を知っていれば、誰もがこう思うはずだ。
「で?どんな依頼人なわけ?」
綾子の問に、ナルは一枚の新聞紙をテーブルに置く。
その記事の内容を見てあたし達は目を見開かせて、驚愕させられてしまった。
「これって……」
依頼主はまさかの元内閣総理大臣。
それは秘密にしたくもなる……と思った。
そんなこんなで、あたしたちは現在その依頼主が指定してきたお屋敷に来ていたのである。
「ようこそ、おいでくださいました。わたしくは大橋と申します」
お屋敷に入れば、中は少しだけ古びてはいるが立派な建物であった。
玄関にはシャンデリアが浮かんでいて、豪華な内装に驚いてしまう。
「今回の件については、全権を一任されております。わたくしを依頼主だと思っていただいてけっこうです。ところで所長さんは……」
「あ、ぼくです。所長の渋谷一也と申します」
胡散臭い笑顔を浮かべて挨拶をしたのは安原さん。
「お聞きしてたとおり、随分とお若くていらっしゃる。そちらの皆様は──」
「親しくさせていただいてる霊能者の方たちです。今回の件で協力をお願いしました」
「あっ、滝川法生と申します」
「松崎綾子です」
「ジョン・ブラウンといいます」