第5章 サイレント・クリスマス
「けどホイッスルが」
「そう。ホイッスルは裏の小屋のそばに落ちていた。ぼーさんはあの囲いを登って水路のふちに出たのをだろうといったし、可能性もなくはない。だけどあの囲いに登ることができれば小屋に登ることもできるんだ」
「そんときにホイッスルを落として、気づかなかったわけか……」
「そのまま、彼はあの場所に隠れたんだろう。当時工事中だった教会には足場が組んであった。それを登ったんだろうな」
「呼んでも出てこなかったのは、隠れ場所を見つけられたくなかったからか……」
「……みんながいなくなるのを待ってるうちに、足場が倒れてしもうたんですね……」
結衣はもう一度見上げた。
寂しげにある彼の骨は、どれだけ辛い思いをしてどれだけ寂しい思いをしてあそこにいたのだろうと思いながら。
「──いずれにしろ、あの場所では十二月の雨は避けられなかったろう──」
ナルの言葉に、結衣は更に涙を溢れさせた。
想像をすると辛くて悲しくて、止まらない涙を必死に手で拭う。
泣いたってしかたないと分かっていても、どうしても涙は止まらなかった。
「さむ、かったよね……ずっと」
嗚咽を漏らしてつぶやく結衣に、法生は彼女の肩を抱き寄せて背中をさすった。
『どうだ!?』
『いないみたいですねぇ』
ケンジは声を出せなかった。
ただ下で東條たちが自分を探していて、何処かへと言ってしまうのを眺めていた。
……どうしよう、神父さんたちいっちゃうよ
ぼく、ここにいるのに……
どうして だれも見つけてくれないの
ここにいるのに
さむいよ
……おとうさん……
おとうさんなら
きっと見つけてくれるよね──
夜になり、麻衣の意識が戻った。
その時結衣は涙を流しながら、彼女を抱き締めた。
「良かったあ……ちゃんと目が覚めて」
「心配かけてごめんね?泣かないでよ、結衣」
「うるさい。いっつも人に心配かけて、このバカ妹」
「ごめんってば、お姉ちゃーん」
そんな双子を見ながら法生は柔らかく微笑んだ。
「ま、取り敢えずちゃんと目が覚めて良かったわ」
「ぼーさんも心配かけてごめんね」
「おれより結衣を労わってやれよ?ずっと心配してたんだからよ」