第5章 サイレント・クリスマス
法生はにんまりと笑いながらも、不貞腐れている彼女の頭を優しく撫でてやる。
そして事務所に入ろうとして、身体が冷えたせいかクシャミをした。
「だいじょうぶですか?」
「あ"ーーご心配なく〜〜。しっかし、どこに隠れたんだかなー」
「絶対見落としてる場所があるはずだ。探したつもりで探していない……」
結衣と法生とナルは事務所に入り、ソファに腰掛ける。
そしてナルは事務所にいた東條へと話しかけた。
「東條さん。彼がいつもどこに隠れていたのかご存知ありませんか」
「さあ……。わたしはかくれんぼに参加していなかったので」
「失礼しますよ」
話し合いをしていると、教会のスタッフである幸代が入ってきた。
そして結衣たちに暖かい紅茶が注がれているティーカップを渡していく。
「体が冷えたでしょう。どうぞ」
「わー、すんません」
「ありがとうございます」
「……あ。そうだ、幸代さん。覚えてませんか?」
「はい?」
「ケンジくんがステッキのときに隠れていた所ですよ。子供の頃よく一緒に遊んでたでしょう」
どうやら彼女は幼い頃から教会にいたらしい。
そしてケンジとは遊んでいた中のようで、東條の言葉に結衣はほんの少し期待した目で幸代を見た。
「──ああ!」
「わかりますか!?」
「いいえ」
困ったように笑う幸代に、結衣と法生は思わず肩を思いっきり落としてしまった。
「いえ、あの、覚えてない……というか。知らないんですよ。ケンジくんは見つかったことがなかったんです。──というか、ケンジくんが見つかるのは隠れそびれたときだけだったので……」
「……よく、わからないのですが」
「そうでしょうねぇ。たぶん、ケンジくんはどこかに秘密の隠れ場所をもっていたんだと思います。あたしたちが近くにいる時はその隠れ家を使わなかったみたいで。でも、そこに隠れられると鬼はどうしても見つけられなかったんですよ」
「そうか。秘密の場所以外じゃ隠れたことにならないから、『隠れそびれた』になるわけだ」
「ええ、そう。そうです」
幸代は懐かしげに微笑みながら、過去の話をしてくれた。
目を細めながら、過去の事を楽しげにそして慈しむように。