第5章 サイレント・クリスマス
だが、麻衣はいなかった。
何処を探しても彼女の姿は見つけられず、空は茜色に染まり出す。
「結衣、一回部屋に入れ」
外でずっと探していた結衣にナルが声をかけた。
その言葉に彼女は不満げに顔を歪ませるので、ナルは眉を寄せて溜息を吐き出す。
「一旦休憩だ。ずっと外にいれば、風邪を引く」
「でも、麻衣がまだ……」
「取り敢えず、集まって話し合いをする。それと同時にスタッフや東條神父にも話を聞く。だから入れ」
麻衣は未だこの寒空の下にいるはず。
いくら頑丈な身体をしている彼女といっても、そろそろこの寒さはこたえてしまうはずだ。
心配であり、早く見つけ出してあげたい。
結衣はその気持ちと焦りがあり、ナルの言葉になかなか頷こうとはしなかった。
「結衣」
ナルが名を呼ぶ。
咎めるような口調でもあるが、結衣はそれでも戻ろうとしない。
そんな時、法生がそれに気付いたのかこちらに歩いてきた。
「一旦もどるんだろう?何してんだ」
「結衣に戻るように言っているが聞かないんだ」
ナルは呆れたように溜息を吐き出す。
「……仕方ねぇよ。大事な妹が居なくなったんだ。でも」
法生は結衣の元に歩み寄ると、彼女の身体を意図も簡単に抱き上げた。
「なっ、ちょ!?ぼーさん!?」
肩に担いでから法生は歩き出した。
まさかの彼の行動に結衣は目を見開かせ、恥ずかしげに顔を真っ赤にさせる。
「一旦休憩だ」
「でも!」
「もし、結衣が体調を悪くしちまったら麻衣が悲しむだろう?しかもそれが自分を探していて……だったら、余計悲しむ。だろ?」
法生の言葉は咎めるように、だが優しいものだった。
その言葉に結衣は少しだけ項垂れてしまう。
法生の言う通りだなと。
「だから、一旦戻る。いいな?」
「……うん。ごめん」
「良いってことよ」
「でも、離して!恥ずかしい!」
「ダーメ。このまま連行でーす」
教会に戻るまで、結衣は法生に担がれたままだった。
やっと離されたのは教会の事務所の扉の前であり、降ろされた彼女は顔を真っ赤にさせて法生を睨んだ。
(怖くねぇな。むしろ、可愛い?小動物みてえ)