第5章 サイレント・クリスマス
イマイチ、リンは状況を把握していなかった。
そんな部下にナルは呆れたように溜息を吐き出しながらも、説明を始める。
「ジョンがタナットからケンジくんを落とした。彼はそばにいた麻衣に憑いた。これは初めてのことだそうだ」
「それは──」
「ラップ音がしたのもはじめてだそうだ。ジョンは落とす時に珍しく抵抗を感じたといっていた。よほど父親のそばを離れたくなかったんだろう。そもそも頻度もふえつつあったうえに、今回は異例づくめだ。これまで隠れた子どもは自発的に出てきたが、今回も、そうだとはかぎらない──だから相手をしていろと言ったんだかな」
「まあまあ、リンは事情を知らなかったんだしさ。んで?どうする?」
「……ケンジくんの父親は?」
「あ、ハイ。ケンジくんをここに預けて関西のほうに仕事にいかはったとか……仕事が終わったら迎えに来るゆうてはったらしいのんですけど、すぐに消息不明になってしもたそです」
何故、彼が消息不明になったのか分からない。
事故に巻き込まれた、それとも自分の意思から消えたのかは誰も分からない。
ただ分かるのは、彼がケンジを迎えにこなかったということだけである。
「……なぜだと思う?」
「へ?」
「彼は隠れる。見つけてくれと合図を出す。見つからなくても出てくるからいなくなる事が目的では無い。東條神父のいうように見つけてほしいからなんだろう。──なぜだ?」
ナルの言葉に、法生はある事を思い出した。
ケンジがリンを見つけた時に『おとうさん!』と叫んだ声。
「──……あー……。あー、そうか……そうか、そうだな。『戻りたいから見つけてほしい』んだ。ケンジは教会に戻りたいんだ。……っていうか『家』だな。形じゃなくて父親と自分がいっしょにいる場所って意味でさ」
「そっか……戻りたいから……」
「……さいですね。教会もケンジくんの家にはちがいなかったんですやろが。代用品ゆうか……」
「第二志望なんだよな。父親がいないから教会にいるんであって、父親がいればもちろんそばに居たわけだ。同時に教会ってのが父親との唯一の接点だろ。戻らないと父親に迎えに来てもらうことができない──」
「そう。彼は戻りたいんだ、教会に……ひいては家に。そのために見つけてもらいたい……ゲームを終わらせたいんだろう」