第5章 サイレント・クリスマス
麻衣が心配なのはあるが、リンがいれば大丈夫だろうという考えがあった。
彼がいる限り、ケンジは隠れようとする気配ないのだから。
「せっかく親子でいるんだし?あたしがいたら邪魔かな〜」
「心配じゃねえの?」
「心配だよ?だけど、リンさんがいるから平気かなって」
「なるほどな。……はー、慣れればなかなか微笑ましい光景でないの」
法生は結衣の頭を撫でながら、出ていく親子を見送った。
リンはフラフラと魂が抜けた状態だが、周りからしてみればそれが少し面白い。
「そ、そうでっしゃろか……」
「すくなくとも、麻衣は完っ全に子どもだしな。あとはパパさんがもーちょっと……」
「──いいかげんにしてください!」
法生の言葉を遮るように、リンの大きくて鋭い声が飛んできた。
その声に法生とジョンは顔を見合わせ、結衣は何事だとすぐに飛んで部屋から出ていく。
結衣の後を追うように法生も部屋を出る。
廊下ではリンが煩わしそうに、麻衣(ケンジ)の腕を振り払っていた。
「リンさん?」
「おいおい、どうしたよ」
「こんな茶番につきあう理由がどこにあるんですか。はなしなさい。わたしはきみの父親ではありません」
「お、落ち着いて、リンさん」
「ちょいとリンさん」
我慢の限界だったのか、リンは僅かに怒りを滲ませている。
麻衣(ケンジ)は戸惑ったようにしていたが、彼を傷つけてしまう言葉をリンが放ってしまった。
「人違いです。こんなことはやめてもらいたい」
その一言で、麻衣(ケンジ)の表情が変わる。
傷付いたように、泣き出しそうな表情に変わってしまい、走り出してしまったのだ。
「ケンジくん!」
「おい、嬢ちゃ──じゃない、ケンジ!」
慌てて結衣は追い掛けたが、外に出た時には既に麻衣(ケンジ)の姿は何処にもなかった。
辺りを走り回ってみるが、何処にも姿はなくて結衣の中に嫌な予感が浮かんだ。
(このまま、麻衣が見つからないなんて事があったら……)
冷や汗が浮かぶ。
すると、遠くから法生の呼ぶ声が聞こえてそちらへと走った。
「結衣!ケンジは?」
「いない……どこにも」
「……やばいな、隠れちまったか」
「いったい、なんだっていうんです?」