第5章 サイレント・クリスマス
父親に似ているリンと離れたくないのだろう。
法生と結衣は顔を見合わせてからにっこりと微笑んだ。
「だいじょーぶ!おとーさんもいっしょじゃけん♡」
「そーそー。おとーさんと離れることはないよ」
「滝川さんっ、谷山さんっ!!」
二人の言葉にリンは目を見開かせたが、麻衣(ケンジ)に腕を引っ張られていく。
そんな彼たちを追いかけていく法生は、リンの肩あたりを優しく叩いた。
「おまえさんにくっついているかぎり、彼は隠れない」
その言葉に、リンは法生を見た。
確かに彼はリンがいる限りは隠れないだろう。
法生はにっこりと笑顔を浮かべると、リンの背中を軽く押して『いったいった!』といい匂いがしてくる部屋へと向かう。
(困ったことになったけど……これで、もしかしたらケンジくんは納得して成仏してくれるかもしれない)
それまでは、麻衣には申し訳ないけれど身体を貸してもらっておこう。
結衣は苦笑を浮かべなが、リンの隣に立って声をかけた。
「リンさん。迷惑かけるけど、麻衣のことお願いね」
その言葉に、リンは頷くことはなかったが何とも言えない表情は浮かべていた。
「さあ!いい匂いのする元に行ってみよー!」
先程までは麻衣(ケンジ)に拒絶されたせいで、泣き出していた結衣だが今は吹っ切れているらしい。
法生と共に甘い匂いがしている部屋の扉を開けた。
「おーっ♡ケーキ屋さんだー」
「わあ!おいしそー!」
「すごい量っすね」
「あら……」
いい匂いがしていた部屋は厨房。
そこには教会のスタッフである女性達が、大量のケーキを並べていた。
女性スタッフ達は、入ってきた結衣と法生に笑みを浮かべて出迎えたが、後ろからやってきたリンと麻衣を見て苦笑を浮かべる。
「あっ、もしかしてこれクリスマスケーキでしょ」
「いいにおーい♡」
既腕を組んでいる麻衣(ケンジ)とそれに項垂れているリン。
厨房にいた子供たちは好奇の目で見ているが、結衣と法生は既に気にしていないようだ。
「えっ、ええ。今夜のミサでいらした方にお配りするんです」
「ああ!よかったら手伝いますよ」
「あ、あたしも手伝いまーす」
「で。そこの親子はどうする?むこうで遊んで……」