第5章 サイレント・クリスマス
今はリンの傍にいるが、麻衣の中にいるケンジが麻衣の身体を使って隠れてしまったら……と不安になった。
「……だろうな」
「ナル!」
勢いよく扉が開き、リンの声がする。
全員がそちらに視線を向けると、困惑したような表情のリンが背中に麻衣をくっ付けて立っていた。
「いいかげんにしてください!」
なんとも言えない光景である。
あのリンに麻衣がくっ付いていて、基本無表情のリンが今は色んな表情を浮かべている光景がなんとも言えない。
ナルは暫く、リンと麻衣を見ていた。
だが息を吐き出すと、そのまま何処かへと歩き出す。
「しばらく麻衣はリンに任せる。遊んでやれ」
「ナル!」
「結衣、ジョン、ぼーさん。ついててくれ」
法生はこの光景にいよいよ我慢出来なくなったのだろう。
身体を屈めて声を押し殺しながら爆笑していて、結衣はもう一度『麻衣』と声をかけるが無視されて泣きそうになっていた。
「うわあああん!麻衣が無視する!」
「今の麻衣さんは憑依されてる状態どすから……恐らく麻衣さんの名前を呼んでも反応せんへんと思います……」
ジョンは泣き出す寸前で身体を屈める結衣の背中を優しく撫でてやった。
笑いがやっと収まったのか、法生は身体を伸ばしながら泣き出しそうな結衣の頭を撫でてやる。
そして何処かへと行こうとしているナルに声をかけた。
「んで、おまえさんは?」
「機材の調整でもしてる」
関わるのが面倒臭いのだろう。
法生は言葉にせず、とりあえずとケンジに憑依されている麻衣へと振り向いた。
「おっしゃ!んじゃあ何して遊ぼっかー?」
「……取り敢えず、今は麻衣じゃなくてケンジくんとして接するのが正解かな」
「そうどすな」
泣いていても仕方ない。
結衣は浮かんでいた涙を拭いながら、ケンジと遊ぼうとしたが、ふわりと何処からかいい匂いがした。
「ん?なんか甘いいい匂いがする」
「お?なんかいいニオイしてきたなー。見にいってみよっか?」
「ケーキみたいな匂い。どーする、ケンジくん、いってみる?」
にっこりと法生と結衣が話しかければ、麻衣(ケンジ)はリンをつぶらな瞳で見上げた。
「そ、そんな目で見ないでください……」