第5章 サイレント・クリスマス
「──イン・プリンシピオ」
タナットの瞳が徐々に閉じていき、そのまま体が倒れそうになりそれをリンが支えた。
「──……だいじょうぶ。落ちましたです」
ジョンの言葉に、双子の瞳が揺らぐ。
悲しげにする二人に、法生は無言で頭を撫でてやる。
そのとき、双子の耳元で声がした。
おとうさん……
男の子の声である。
それが聞こえたと思った時であった。
突如、大きなラップ音が部屋に響いたのである。
「きゃっ!?」
思わず結衣は耳を塞ぎ、隣いた麻衣はその場に座り込んでしまっていた。
「──……ラ、ラップ音か、いまの……?」
「す、すごい音だったあ……。って、麻衣、だいじょうぶ?」
「ん?どしたー?腰抜けたか」
「……麻衣?」
麻衣はぼんやりとリンの方を見ている。
何処か、様子がおかしいと結衣は彼女の目の前で手を振って見せた。
放心状態なのだろうか。
そう思っていると、なんと麻衣が走り出してリンに抱き着いたのである。
「ま、まいいいい!?!?」
「麻衣っ!?」
「たっ、たっ、たにっ谷山さん!?」
動揺するリンと、驚愕する結衣と法生。
そんな彼らを無視するように、麻衣は満面の笑みを浮かべたのである。
「……ま、まさか……ねえ、まさかぼーさん、麻衣……」
さあ……と結衣は青ざめて、同じように法生も青ざめてしまう。
「すっ、すんまへん!すんまへん〜!!麻衣さんの中に入ってしもうたみたいです〜〜っ」
憑依された麻衣は、幼い子供のようにニコニコと笑いながらリンの周りではしゃいでいた。
その様子に結衣は引き攣った笑みを浮かべながら、なんとも言えない心情であった。
(なんというか……、なんていうか……)
言葉にならない。
そう思っていると、項垂れていたリンが結衣を見上げた。
「谷山さん!なんとかしてください!」
「え、あ!はい!?」
なんとか……と言って、なんとかなるだろうか。
そう思って麻衣に近づいた。
「ま、麻衣〜?リンさん困ってるから離れよ?」
そう声をかけたが、麻衣(ケンジ)はそっぽを向いた。
「あ……」
結衣はその場に崩れ落ちた。
愛する妹にそっぽを向かれて、無視されたという事実にショックを覚えたのだ。