第5章 サイレント・クリスマス
リンはキッズ広場のような、遊び道具がある部屋にいた。
その後ろ姿を結衣たちは笑いを堪えるように、そして珍しいものを見るように眺めていた。
「……へんですね」
「確かに、ヘンな眺めだ……」
「なんとも言えない光景……」
「リンさんて、意外とマイホームパパタイプじゃないの?」
双子と法生の言葉に、ジョンは困ったように『そういう意味ではなくて』と呟く。
「いつもやったら出てきたらすぐ離れてしまうんですけど……」
「お父さんがいるんで安心しちゃったんじゃない?」
「確かに。離れ難いんだろうと思うよおー」
今も憑依しているケンジは楽しげに、リンを相手にして遊んでいる。
その光景がなんとも微笑ましく、結衣はリンには申し訳ないがと笑ってしまった。
そんな光景を見ていたナルはというと、溜息を吐き出していた。
「──ホームビデオを撮っていてもしかたない。ジョン、落としてみないか?」
「ハイです」
ナルは未だに笑っている双子に『仕事をしろ』と怒鳴り、二人は慌てて仕事に取り掛かる。
部屋にある全てのカーテンを閉めていき、部屋の明かりを消していった。
「カーテンぜんぶ閉めたよ」
「電気もけしたよー」
「ジョン」
「ハイ」
ジョンは神父の服装に着替えていて、リンにくっついているタナットの額に聖水で濡らした指で十字架をかく。
そして聖書を広げた。
「──天にましますわれらの父よ。願わくば御名をたがめさせたまえ。御国をきたらせたまえ。御心の天になるごとく、地にもなさしめたまえ──」
その光景を見ていた双子は、なんとも言えない気分で眉を下げながら見守っていた。
「……なんか、かわいそう」
「……うん、かわいそう」
「ん?」
「ケンジくんが、かわいそうだなって」
「お父さんに会えて喜んでるのに、また引き離しちゃうんだね」
「あんなに、喜んでたのに……」
双子はケンジに同情してしまっていた。
せっかく父親に会えた、実際は父親に似た人物に会えた彼を引き離してしまうのだから。
「……あー……。でも、タナットだってずっと憑依されてたらかわいそうだろ?」
「そうだけど……」
「それは、わかってるけどさ……」
一方、ジョンの方は終わりに近づいていて、最後の言葉を告げた。