第5章 サイレント・クリスマス
双子達はお腹空いたと話し、ナルはリンに見取り図を渡したりしていた時である。
「──おとうさん!」
一人の男の子が、なんと後ろからリンに抱き着いたのである。
しかも『おとうさん』と呼んで。
ナル以外の全員が目を見張った。
そして全員がリンを見て『おとうさんですって……?』という表情になる。
「……リンさんの、隠し子?」
思わず結衣が呟くと、リンが目を見張って珍しく大きな声を出した。
「断じて違います!!」
取り敢えず……と、リンは子供をくっつかせて、その他はなんとも言えない表情で教会の中に入った。
すると教会のスタッフの女性と東條が驚いた表情で、リンに抱きついている子供を見る。
「──まあ、タナット!どこへいってたの」
「この子ですか?いなくなっていたというのは」
「ええ、そうです。さあ、タナット。こっちへ……」
東條がタナットに手を差し出すが、彼は嫌そうに顔を歪めてリンの背後に隠れてしまった。
その様子に益々リンは困り果てた表情を浮かべる。
あの普段は無表情なリンが困った表情をしている。
それが珍しくて結衣は思わず笑いそうになったのを、なんとか我慢した。
「わたしを父親と間違えているようです。誤解をといてください」
「父親……──そうですか。この子は父親に似た人を見るとこうなってしまうんです。なんだが……あなたは特別似てらっしゃるような気もします。三十年もまえのことなので記憶がはっきりしませんが」
「──じゃあ、やっぱり子どもたちが憑くのは永野ケンジなのか……」
「でも、あの子は喋れなかったんでしょ?さっき、はっきり『お父さん』て」
「喋ってたよね……」
双子の言葉に、東條が『ああ』と苦笑する。
「声が出なかったといっても、元からではありませんでしたから。なにかのはずみで声になることがあるようです」
「んじゃ、直接本人に話を聞く訳にもいかないか」
「隠れ場所から出てきたので、じきに離れると思います。それまでよろしくお願いします」
リンは、取り敢えずタナットからケンジが離れるまで遊び相手になることに。
本人はそれをとても嫌がっていたが、ナルが『そうしろ』と命じたので嫌々相手をするこになった。