第5章 サイレント・クリスマス
「──たぶん、水路に落ちたのだろうと。警察が水路から続いている川まで探してくれたのですが、とうとう見つからないままで……。──ケンジくんだと思います。さっき合図がしたでしょう?憑かれた子が姿を消すと必ずあの音がするんです。『もういいよ』の合図なんですよ。ケンジくんがいなくなってから、ステッキはしぜんに廃れました。未だにあの合図をする子がいるとしたらケンジくんだけです」
「……ホイッスルをなくしちゃったから?」
「ええ。なんの危険もないのです。すくなくともいままでは」
「なにかをきっかけにエスカレートする可能性はあります」
東條は不安げに、だが何かを確信したようにナルの言葉に首を横に振った。
「そういう子ではないと思っているのですが……見つけてほしいんだと思います。そんな気がするんです」
「……見つけて欲しい」
居なくなった自分を見つけて欲しくて、ケンジは今も隠れ続けている。
結衣はほんの少し泣きくなってしまって、目頭が熱くなっていくのを感じた。
だが、自分が泣くのは少々可笑しいだろう。
そう思ってなんとか我慢してから、外へと視線を向けた。
今も彼は憑依して隠れているのだろう。
「何度落としても浄化するのことはでけへんのです。ボクもケンジくんが憑依した子に悪さするとは思わんのですけど……」
「変わるからな、現象は」
「そうなの?」
「変わるものなの?」
「よく“先祖の霊がたたる”っていうだろ。だけどフツー自分の子孫にむごいことをしたいと思うかね?」
「……確かに」
「なのに、たたることがある──つまり、死んで彷徨ってる人間ってのは変わっちまうもんなんだよ。本人が変わるというより周囲の思念なんかを吸い込んで変容しちゃうんだ」
そういえば……と結衣は深夜見たTVを思い出す。
怖い話などで『先祖がたたってきた』という話があったが、それが何故なのかと何時も不思議だった。
「ええと……まわりの影響をうけまくっちゃうってコト?」
「そんなもんかな。でなきゃ思い残した『なにか』が強すぎて、その『なにか』だけのかたまりになっちゃったりしてな」
「そうなんだ……」
「……じゃあ、ケンジくんがいい子だからってこれからもずっとそうだとは限らないんだ……」
「なんだよなー」