第5章 サイレント・クリスマス
「けれども、明るいやんちゃな子でしたよ。ほかの子供たちともすぐに馴染んで、ケンジくんをまじえて出来たのが『ステッキ』という遊びだったんです」
返事の代わりに棒で何かを叩くんだぞ
『まだ』は一回
『もういいよ』はたくさん
「ケンジくんはかくれんぼの名人でした。なにかコツでもあるんでしょうか。見つからなくて……そのケンジくんが、いなくなったんです」
ー三十年前ー
『ケンジくんが?』
東條は子供たちにケンジがいなくなった……と報告を聞いた。
子供たちは降ってきた雨で濡れていて、困ったように東條に話をする。
『うん。新しいおうちでステッキやってたら雨が降ってきて』
『もう帰ろうよっていったのに、出てこないの』
外の雨は徐々に強くなっている。
そして辺りは暗く、子供一人残せるような状態ではなかった。
『みんなはここにいなさい。ケンジくんをむかえに行ってくるからね』
東條は他のスタッフと共に、新しい足場が置かれている教会へと向かったがケンジの姿はなかった。
何分、何十分、探しているのだが姿を見つけることが出来ない。
『いませんねぇ!』
『いったいどこに……』
『神父さん!たいへんだ、こっち、こっち!』
呼ばれた先にあったのは、崩れてしまっている足場。
すぐに大人たちは嫌な予想をしてしまった。
『足場が……!まさかこの下に!?』
『人手を集めてきます!』
「──結局、そこからケンジくんは発見できませんでした。翌日、明るくなってから探しにくるとホイッスルを見つけたんです」
「ホイッスル?」
「ええ。少しでも声の代わりになればと誕生日にあげたもので、いつもケンジくんが首から下げていたんですが……紐は切れていました。教会の裏には水路が通っています。かなり深いのですが、当時はまだフェンスがありませんでした。そのわきに倉庫があってその傍に……」
「遊んでいて、落としたのかもしれませんよ」
「ええ。……ただ、最後に隠れる前に落としたのは確かです。笛を持つようになってからは、必ず合図に笛を吹いていましたから……」
東條の表情は暗かった。
昔を思い出して、そしてケンジを思い出したせいなのだろう。
悲しそうな、辛そうなそんな表情だった。