第5章 サイレント・クリスマス
「さっきの──外にこどもがいてましたやろ?ときどきあの子らの中に憑依されてしまうお子がおるんです」
「ええ!?」
「憑依!?」
「ボクが何度か落とさせてもらたんですけど……」
「また憑かれる子がでるわけか」
ジョンは小さく頷く。
そして東條がそれに加えた説明を始めた。
「別にそれで悪さをするというわけではないんです。ただ、明らかに様子が別人のようなのと、隠れることを除いては……」
「隠れる……というのは?」
「文字どおり隠れてしまうんです。かくれんぼなんですよ。暫く隠れていて──出てくると、直ぐにいつも通りに戻るのですが、憑かれた子供はその間のことを覚えていません」
東條がそこで言葉を途切れさせると、外で何かを叩くような音が響いてきた。
随分大きな音であり、結衣達は不思議そうに外を眺める。
「……やはり、また隠れたようですね。あれが『もういいよ』の合図なんです」
「合図?」
結衣が言葉にすると、東條は苦笑を浮かべて頷いた。
「──もう三十年近く前になります。ここで預かっていた子供たちの中に永野ケンジという子がいたんです。時期もちょうど今頃でしたか。この教会がべつの場所からこちらに移る少し前で、もう工事もほとんど終わっていて……新しい教会でクリスマスをむかえる予定でした。子どもたちは新しい“家”がよほど嬉しかったようで、工事中からここを遊び場にしていました。中でもかくれんぼがはやっていて……子供たちは『ステッキ』といっていましたが」
「ステッキ?」
「ケンジくんは声を出すことが出来なかったのです。それで棒で物を叩いて音を声のかわりに」
東條が外を指さす。
外からはまた物を叩くような音が聞こえてきていた。
「ここに預けられる子供たちの多くは家庭に恵まれないか……家庭に問題を抱えています。ケンジくんは父親に連れられて来たのですが、そのときにはすでに喋ることの出来ない状態でした。精神的なもののようだと、聞いたことがあります。なにがあってそうなったのかは知りませんが……」
結衣と麻衣は東條の話を聞いて、また泣きそうに眉を寄せていた。
会ったことのない『ケンジくん』に同情してしまっていたのか、それとも悲しい話に心が揺さぶられてしまったのかもしれない。