第4章 放課後の呪者
「……わたしには、笠井さんのようにそんなことをしてはいけないと言ってくれる人はいませんでした。だれも……できない時はできないといっていいのだと。教えてくれなかった……」
産砂先生の小さな声に、同情する気持ちが溢れた。
彼女もまた、スプーンを曲げただけで……トリックを使っただけで酷い目にあったのだろうと。
「あなたの……日本の不幸はESPの判定をマスコミに任せたことにあります。権威のある研究機関が日本にはなく、あなたがの能力の真偽をはかる方法がなかった──。マスコミなんかに任せてはいけなかったんです。彼らが欲しいのは話題性であって真実ではない」
ナルの言葉に、産砂先生は徐々に俯いていく。
そんな彼女に笠井さんは、同情した瞳で名前を呼んだ。
「──恵先生……」
「……わたしは……できるだけ……笠井さんの才能を守ってあげようと思いました。それがいつのまにか周囲から騒がれて……教師までいっしょになって。朝礼で笠井さんを攻撃したそのまえにも何度も笠井さんを叱っているんです。わたしにもなんできちんと指導をしないんだと」
「……それで、ですか?」
「ええ……ほんのイタズラだったんです。わたし、くやしくて……」
産砂先生は子供のように微笑む。
悪意なんてないその笑みが、返ってあたしには怖かった。
「イタズラで済むのですか?厭魅というのは人を積極的に害するための呪法です。幸い死人はでませんでしたが、それも時間の問題でした。すくなくともあの席だけでも、つぎに座った生徒こそは電車にまきこまれて死んだかもしれない」
「それは……不幸なことですけど、でもそうなればみんな思い知るでしょう?この世には化学なんかじゃわりきれないものがあるって」
病室は静まり返る。
あたしはその静かさに唇を噛みながら、産砂先生を見た。
彼女は未だに穏やかな笑みを浮かべているだけだ。
(なにが、駄目だったの?笠井さんがスプーンを曲げたから、産砂先生がスプーンを曲げたから?)
いや、誰が悪いとかでは無い。
超能力、呪詛……まるで魔法のようなとのに色んな人々が飲み込まれたのである。
産砂先生はそんななか、人として守らなければ行けないものを見失った。
(だけど、産砂先生がすべて悪いとはいえない……)