第2章 人形の家
「子どもたちを散らす。松崎さん、霊を通さない護符を作って家じゅうにはってください」
「ホテルにはったあれ?すぐ、突破されちゃうわよ」
「いいんだ。内側に向けて結界をはる」
ナルは相変わらず淡々とした口調、そして落ち着いた様子で作戦を話していく。
それを全員が静かに聞いていた。
「霊が礼美ちゃんのそばに近寄れないようにするのではなく、この家から出れないようにして──鬼門だけを開放する」
「鬼門って?」
「北東の方角……悪霊の通りやすい方向だ。鬼門以外が通りにくいとなれば、連中はかならずそこを使うだろう。そこで、ぼーさんと松崎さんが鬼門の外でかまえる」
「でてきた霊を散らすわけか」
「そう、散らすだけでいい」
「それじゃ、またすぐにもどってきちゃうわよ」
「女のまわりの霊を一時的にでもへらせばいい。ジョンは居間にきて、霊を散らしてみてくれ」
「はいです」
「よし、それじゃ……」
話を完結させようとするナルに、全員が目を見開かせる。
まだ、女を除霊するかを決めていないのだから。
「おいおい。かんじんの女の除霊はだれがやるんだ?」
「まさか……」
視線がナルに向かう。
除霊ができる人間はあとはいないのだ。
双子は無理だろうし、リンもどうなのかわからない……ならばあとが残っているのはナルだけ。
ナルは不敵に笑った。
何も言わないが、笑みだけを作っている。
「はじめよう」
ナルの言葉通り、綾子が用意した護符を部屋中に貼った。
そして綾子と法生は鬼門になる場所の外にいて、リン以外の残りのメンバーは居間へといた。
「天にましますわれらが父よ。願わくは、御名をあがめさせたまえ」
ジョンが祈祷の言葉を紡ぐと、居間に重い空気が伸し掛る。
そして真砂子は両側にいる結衣と麻衣の腕を、小さく掴んでいた。
「だいじょうぶ?」
「真砂子、だいじょうぶ?ベースにもどろうか?」
「いいえ……ここにいますわ」
三人はジョンから少し離れた後ろにいて、ナルはそんな3人の近くに壁に寄りかかって様子を見ていた。
どうやら真砂子はナルのそばにいたいらしい。
そう思った双子はそれぞれ、違う反応を見せた。
(真砂子、ナルが好きなんだなあ……麻衣とはライバルかあ)