第9章 眠れないお姫様
「ねえ、どこに行くの?」
男子寮の階段をドタバタと上がっていくフレッドとジョージに、チユは少し慌てた声で問いかけた。
「そりゃもちろん、ウィーズリー兄弟特製秘密基地だよ!」フレッドが肩越しに答える。
「俗に言う『男子寮の部屋』とも呼ばれるな」ジョージが付け加えた。
談話室なら他の生徒たちや監督生がいるから、少なくとも行き過ぎたことをされる心配は少ない。でも、男子寮の部屋となれば、誰も止めてくれない――。
不安が胸をよぎる。
ああ、杖を持ってこなかったのは失敗だった…チユは心の中で自分を呪った。
彼らの部屋に足を踏み入れると、まさに予想通りの光景が広がっていた。
チユの部屋とは比べ物にならないほど乱雑で机の上には悪戯グッズや作成中のアイディアが書かれたメモ用紙が散らばっており、何やらカラフルな道具があちこちに置かれていた。
「すごい…!」チユが興味津々でその辺りを覗き込んでいると、いつの間にか背後から2人の声が響いた。
いつの間にかパジャマに着替えた双子が、ベッドの上で寝転がりながら、彼女の名を呼ぶ。2人はベッドの上に寝転がり、片手をパタパタと空いているスペースに叩いた。
「さあさあ、今夜の特別寝かしつけサービスの始まりだ!」
フレッドがニヤリと笑いながら、空いたスペースを指さす。
「我々の超特製、夢見るベッドタイムアドベンチャーにご招待!」
ジョージもまた、優雅な手のひらでベッドの上を指し示す。まるで舞踏会の招待状でも渡すかのようだ。
チユがベッドの端に恐る恐る腰を下ろすと、フレッドが勢いよく手を伸ばして彼女を引き寄せ、あっという間にベッドの中に引きずり込まれた。
「どういうこと…?」チユは困惑しながら、双子を交互に見た。
「最近全然寝れてないんだろ?」フレッドが突然真剣な顔で言い、チユの顔をじっと観察した。
「やつれてく君が心配なんだ、このままじゃゴーストになっちまうぞ?」ジョージも真顔で加える。
「だから寝かしつけてあげようってわけさ」フレッドがにっこりと笑うと、ジョージも優しい顔で頷く。
チユはその強引な行動に少し抵抗しながらも、彼らが心配している気持ちが伝わってきて、どこか胸が温かくなるのを感じた。
思わず照れくさい笑みを浮かべて、彼らをちらりと見る。
「2人共、ありがとう」