第1章 空からの知らせ
――それから、彼の家へと向かう事になった。
てっきり直ぐにホグワーツへと向かうのだと思っていたが、入学準備が必要とのことで、それまでの間、リーマスが面倒を見てくれることになったのだ。
移動には『姿現し』という魔法の方法を使用した。
これが予想以上に辛く、体が無理やりゴムのように引き伸ばされ、細い管を通されるような不快な感覚に襲われ息が詰まりそうだった。
「さあ着いたよ、ここが私の家だ」リーマスの温かな声が響く。
月明かりに照らされた庭には、古びた小さな一軒家がぽつんと建っていた。
家の横には井戸と畑が広がり、様々な植物や野菜が育てられている。
コンクリートと鉄の柵で囲まれた冷たい孤児院とは、まるで別世界のようだった。
家の中に入ると、床から天井まで本棚が並び、書物が所狭しと詰め込まれている。
ダイニングテーブルには沢山の羊皮紙が広げられ、古びた椅子が2つ並べられている。その椅子に腰掛けると、少しぐらついた。
「汚くてごめんね、お客さんが来ることが無くて」とリーマスは恥ずかしそうに笑った。
チユは心の中で喜びを感じていた。孤児院では同じ本を何度も読み返すしかなかったが、ここには未知の知識が山のように積まれている。
新しい世界への扉が、目の前に開かれているような気がした。
「いいえ、とても素敵なお家だと思う」チユは心からそう思った。
リーマスは暖かい紅茶を淹れながら「入学までの間、ここで色んな本を読むといい」と優しく微笑んだ。
「いいの?」チユは少し躊躇いながら尋ねた。
「ああ、勿論だよ。今まで酷い暮らしをさせてしまってすまなかったね、もう少し早く迎えに行けていれば…」
優しく頭を撫でようとするリーマスの手を、チユは反射的に振り払ってしまった。長年の孤独と不信感が、まだ彼女の心に根付いていたのだ。
「……ご、ごめんなさい」チユは小さな声で謝った。
その瞬間、部屋の温かな空気が少し凍りついたように感じた。