第8章 翼を得た少女
ホグワーツでの生活にも慣れ始め、悪夢にうなされることはあるものの、少しずつ睡眠を取るようになった。
「なんだいその量は?それ、食べ物なのか?」
「本当だよ、これなら僕たちの冗談の方がよっぽどボリューム満点だよな」
こうして食事の度に、ウィーズリーの双子にからかわれながらも、半ば強制的に皿に料理を乗せられ、無理に食べさせられるこの状況は、入学初日と全く変わらなかった。
ホグワーツの日々はチユが思い描いていた楽しい学生生活とはほど遠かった。山のように宿題が出され、スリザリンの生徒たちからは冷たい視線を向けられ、噂話では「悪魔」とささやかれていた。
救いだったのは、スリザリン生と同じ授業を受けるのが魔法薬学だけだったのでそれ程嫌な思いをせずに済んだ事だ。
ハリーとロンと過ごす時間や得意な呪文学の授業が、チユの唯一楽しいと思えるひとときだった。
ある日、談話室の掲示板に「お知らせ」が張り出された。それを読んだチユは、思わず肩をがっくりと落とした。
【飛行訓練は木曜日に始まります、グリフィンドールとスリザリンの合同授業です】
箒に乗ったことなど一度もない、それに羽がのあるチユにとって、飛行訓練などまったく無意味な授業に思えた。
そして、よりによってスリザリンと合同だなんて…。チユはひたすら、どうやってこの授業をサボるかを考えたが、特に良いアイデアは浮かばなかった。
それでも、結局その日がやってきてしまった。
仮病を使おうと思えば使えたが、「せっかくだから、人生で1度くらいは箒に乗ってみよう」と、どこかで無理に納得しようとしていた。
授業が始まる前、ロンはシェーマスと熱くクィディッチについて語り合っていた。マルフォイは、大きな声で自分の飛行技術を自慢していた。
話の合間に、マルフォイが時々チユをチラチラと見るのに気づく。彼は、自分が「すごい!」と褒めるとでも思っているのだろうか?
チユはわざと聞こえないふりをして、そっぽを向いた。