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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第7章 打ちひしがれた願い




彼女の期待はすぐに裏切られることになった。

準備をしている間に夜が明け、空が徐々に明るさを取り戻していったが、それでもまだ早朝の静かな空気が漂っていて、誰も降りてくる気配はなかった。


談話室の暖炉には、昨夜の余熱がわずかに残っているだけだ。
静寂な空間に、今までの孤独感が再び這い寄ってくるようだった。


チユは机の上に置かれた誰かの雑誌や小説を手に取り、暖炉の前にある古びたソファに腰を掛けた。
パラパラとページをめくるものの、文章に集中するわけでもなく、指先を無意味に動かしては止めを繰り返す。


やがて談話室に生気が戻り始めた頃、ハリーとロンの姿が現れた。


「おはよう、チユ!」とハリーが元気よく声を掛ける。

「驚いたよ、さっきハリーとチユを談話室で待ってようって話してたんだけど、まさか僕らの方が待たせてたなんて」ロンが首をかしげ、少し笑いながら言った。

チユは不意に眉をひそめ、心の中で苦笑いを浮かべた。
「一体、この2人には私はどんな印象を持たれてるんだろう」と少し不満げに考える。


大広間までの道のりは、まるで迷宮のようだった。
やっとの思いで朝食の席に着くと、チユは温かい紅茶をコップに注ぎながら、周囲の賑やかな様子を静かに見渡した。
朝食の大皿にはどこにでもある一般的な家庭料理が並べられている。
しかし、かつて孤児院で過ごしていたチユにとっては、そのありふれた朝食が、想像もできないほど豪華で贅沢に感じられた。


「君、まさかそれだけで済ますつもり?」


一向に朝食に手を付けようとしないチユを見て、ロンが心配そうに問いかけた。

リーマスの家での温かな食事の記憶が蘇る。あの頃は不思議と食欲があった。
けれど今は新しい環境に対する不安からか、昨日からほとんど食べる気になれなかった。


「顔色悪いみたいだけど、大丈夫?」とハリーが顔を覗き込む。


「大丈夫、ただ、ちょっと緊張してるだけだよ」


チユは心配をかけまいと精一杯の笑顔を作ったが、その表情は却って不自然さを際立たせた。
青白い顔で紅茶を啜る姿は、まるで幽霊のよう。周囲の視線が、じわじわとチユに集まっていく。

それは、有名なハリー・ポッターへの好奇心とは違った種類の視線だった。チユ・クローバーという異質な存在への、警戒と興味が入り混じった眼差し。

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