第5章 ホグワーツ特急での出会い
通路は静かで、ほんの少しの風が列車の窓から吹き込んでいるように感じた。
チユは窓の外の景色をぼんやりと見つめながら歩き始めた。足音が響くたびに、胸の中に溜まった疲れが少しずつ和らいでいくのを感じる。
「やっぱり、私うまくやれないのかな…」
「おっと!見てみろ相棒、誰かさんが廊下で物思いにふけってるぞ!」
「まさか!フレッド、こんな所で出会うとは運命の巡り合わせだな!」
突然、後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには双子が、悪戯っぽい笑顔を浮かべて立っていた。
「こんな所でどうしたんだ、迷子かい?」
「列車の中で急いだって、早くは着きませんぜ?」
知っている顔に出会うと、胸の奥でほっとした気持ちが湧き上がってくる。
「久しぶりだね、2人とも」チユは少しだけ微笑んだ。
「何だか元気が無さそうだ」
「これは我らの出番かな?」
双子は息ぴったりに掛け合いながら、チユの両側に回り込む。
「実はね、我らが特製の気分転換アイテムが——」フレッドがポケットから何かを取り出そうとする。
「——たっぷり仕込んであるんだ!」ジョージが得意げに続ける。
「ちょ、ちょっと待って!まさか新しい悪戯グッズ?こんな所で出したら叱られちゃう…!」
実際に彼等の悪戯商品を見たことはなかったが、ロンからその話を聞いていたチユは、嫌な予感がした。彼らが何かを取り出す前に、慌てて手を振ってそれを阻止した。
「なんと冷たい!」
フレッドが演技じみた悲しみの表情を浮かべる。
「心が痛むよ、まったく」
ジョージが胸に手を当てて嘆く。
「こう見えても我々の新作はマクゴナガル女史のお墨付きなんだぜ?」
「まぁ、承認は取ってないけどね!」
2人は同時にニヤリと笑う。その様子に、チユも思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう、少し元気が出たよ。そろそろ戻るね」
「おっと、これは恐れ入りました」
フレッドが大げさにお辞儀をする。
「我らの使命は果たされましたな」
ジョージも同じように深々と頭を下げた。
そう言って、双子は派手なジェスチャーで別れを告げ、廊下を踊るように去っていった。
先ほどまでの重たい気持ちが、まるで魔法のように軽くなっているのを感じながら、チユは自分のコンパートメントへと歩き始めた。