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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第5章 ホグワーツ特急での出会い



男の子が名前を言おうと口を開いたその瞬間、コンパートメントの戸が突然開いた。

「ここ空いてる?」

背の高い、赤毛の少年が入ってきた。ロンだ。


「他はどこもいっぱいなんだ……って、チユ!?」

「ロン!久しぶり!」


チユは驚きながらも、笑顔で応えた。


「良かった、チユの姿を駅で見かけなかったから、君が入学日を忘れてるんじゃないかって兄貴達と話してたんだ」


チユは思わず心の中で「入学日を忘れそうなのは、どちらかというとあなた達の方だと思うけど」と思ったがそれを胸に留めた。


ロンはソワソワとした様子で、隣の席に腰掛けた。
「ね、ねぇ…兄貴に聞いたんだけど、君、本当にあのハリー・ポッターなの?」


突然、ロンがポロリと言った言葉にチユは驚きのあまり、目を見開いた。


ハリー・ポッター――


世間知らずのチユでも、ハリー・ポッターの名前はよく知っている。生き残った男の子――

魔法界の子供達は、皆、ハリー・ポッターの名前を聞きながら育つ。エメラルド色の瞳に、稲妻型の傷跡、彼こそがあのハリー・ポッターだ。


「うん、そうだよ。ほら」


ハリーはそう言って、前髪を上げて稲妻形の傷跡を見せた。チユとロンは、その傷跡をじっと見つめた。

「僕、てっきりフレッドとジョージがまたふざけてるのかと思ったよ…あー、僕の名前はロンって言うんだ、ロン・ウィーズリー」


「あ、私はチユだよ。チユ・クローバー」
チユは少し照れくさそうに自己紹介した。


「よろしくね、ロンにチユ。ところで、君たちは魔法界出身なの?」

「うん、そうだよ」

「僕のとこもそうだよ、家族みんな魔法使いさ。ママの従姉妹だけが会計士だけど……」

「じゃあ、君たちはもう魔法をいっぱい知ってるんだろうな」


ハリーは少し羨ましそうに呟いた。


そういえば、ハリー・ポッターはマグルと暮らしていると、どこかの記事で読んだことがある。


チユにとって魔法は当たり前のものだったが、ハリーにとっては魔法を使うことすら特別なことだったに違いない。
自分の身を守るために魔法を使ってきたチユには、彼が持っているような無邪気な魔法への憧れが逆に羨ましく感じられた。


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