第5章 ホグワーツ特急での出会い
それから直ぐにリーマスが来た。
「さあ、ここでお別れだ。君の幸運を、いつも祈っているよ」
リーマスは微笑みながら、手を差し出した。
「ありがとう」すぐにその手をしっかりと握り返した。
精一杯の笑顔を向けながら、心の中で感謝の気持ちが溢れる。
リーマスの温かい手のひらの感触が、何とも名残惜しい。
「手紙を書くよ。君もたまに返事を書いてくれ。心配だから」リーマスの言葉に、チユは頷いた。
「もちろん、この子がちゃんと手紙を運んでくれればだけどね」
バロンは相変わらず、不機嫌そうな顔でチユを睨んでいる。あれからお世話をし続けたが一向に懐く気配は無い。
けれど、ツンっとそっぽを向く姿は何処か気高い貴族のようで、バロンという名前にぴったりなのでそれはそれで良いとチユは思っていた。
「さあ、そろそろ時間だ」
リーマスはチユにとって初めての信用出来る人間で、一緒に過ごす時間は彼女の人生の中で1番楽しく、幸せな時間であった。
「離れたくない…」
思わず口にしたその言葉に、チユは驚いた。心の中で感じていた寂しさが、無意識に漏れてしまったのだ。
「私もだよ、君と過ごした時間は本当に宝物の様だった」リーマスは寂しげに微笑んで、続けた。「長期休暇には帰ってきてくれないか?もちろん、君が嫌じゃなければだけど…」
「いいの?」
チユは少し躊躇いながらも尋ねる。
「ああ、もちろん。私達は家族じゃないか」
思わずチユは抱きついた。
彼の温もりを感じながら、チユは心からの感謝を言葉にした。
リーマスはいつも、チユが欲しい言葉をくれる。そのおかげで、悲しみの中にも希望が芽生え、これが「お別れ」ではないと心に強く感じた。
彼に良い報告ができるように友達を作って、勉強も頑張ろう。そう思うと、自然と前向きな気持ちが湧いてきた。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
チユは、彼の顔を見たら涙がこぼれそうで、振り返らずにそのまま車両に一歩踏み出した。
その背中を、リーマスがじっと見守っていることを感じながら。
これから、どんなことが待っているのだろうか。どんな人に出会うのだろうか。
少しの不安とたくさんの期待を抱えながら、チユは深呼吸をした。