• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第18章 目覚めの光



やがて汽車がマグルの町へ入り、生徒たちはマントを脱ぎ、次々と私服に着替え始めた。
窓の外には、魔法とは無縁の世界が少しずつ広がっていく。

そのとき、コンパートメントの扉が軽くノックされた。


「し、失礼、少しいいかな…?」


振り向くと、そこに立っていたのはゼロだった。


彼の私服はいかにも“裕福な純血一家です”といった雰囲気で、きちんと仕立てられたシャツが彼の家柄を物語っている。

人見知りの彼はハリーたちの視線を気にしているようで、少し引きつった笑みを浮かべていた。


「あれあれ、いつの間に仲良くなったんだよ?」とロンがニヤニヤしながら冷やかした。

ハーマイオニーは小さく咳払いして、手元の本をめくるふりをする。ハリーもつい笑いをこらえている。


「少しだけ話せない…?」


ゼロは控えめに、けれど真剣なまなざしでチユに問いかけた。

チユは小さくうなずいて席を立ち、みんなに軽く会釈してからコンパートメントを出た。

汽車の通路、窓のそばに立ち、遠ざかっていく田園風景を眺めながら、2人はしばらく黙っていた。
汽車のゆるやかな揺れが、足元に細かく伝わってくる。



「や、やあ……久しぶり。体調は、どう?」


ゼロは目を細めて、どこか懐かしそうにチユを見つめた。


「うん、もう大丈夫だよ。ゼロは少しやつれてるね」

「ああ、これは、気にしないで」


彼の言葉はあくまで軽くて、まるでそれが当たり前のようだった。
けれどその目の下の影や、どこか力の抜けた声は、明らかに“普通じゃない”。


チユは迷った。けれど、抑えきれなかった。



「ゼロって……人狼なの……?」



その瞬間、ゼロの目が揺れた。ほんの一瞬、笑顔の仮面が落ちかける。
/ 214ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp