第18章 目覚めの光
やがて汽車がマグルの町へ入り、生徒たちはマントを脱ぎ、次々と私服に着替え始めた。
窓の外には、魔法とは無縁の世界が少しずつ広がっていく。
そのとき、コンパートメントの扉が軽くノックされた。
「し、失礼、少しいいかな…?」
振り向くと、そこに立っていたのはゼロだった。
彼の私服はいかにも“裕福な純血一家です”といった雰囲気で、きちんと仕立てられたシャツが彼の家柄を物語っている。
人見知りの彼はハリーたちの視線を気にしているようで、少し引きつった笑みを浮かべていた。
「あれあれ、いつの間に仲良くなったんだよ?」とロンがニヤニヤしながら冷やかした。
ハーマイオニーは小さく咳払いして、手元の本をめくるふりをする。ハリーもつい笑いをこらえている。
「少しだけ話せない…?」
ゼロは控えめに、けれど真剣なまなざしでチユに問いかけた。
チユは小さくうなずいて席を立ち、みんなに軽く会釈してからコンパートメントを出た。
汽車の通路、窓のそばに立ち、遠ざかっていく田園風景を眺めながら、2人はしばらく黙っていた。
汽車のゆるやかな揺れが、足元に細かく伝わってくる。
「や、やあ……久しぶり。体調は、どう?」
ゼロは目を細めて、どこか懐かしそうにチユを見つめた。
「うん、もう大丈夫だよ。ゼロは少しやつれてるね」
「ああ、これは、気にしないで」
彼の言葉はあくまで軽くて、まるでそれが当たり前のようだった。
けれどその目の下の影や、どこか力の抜けた声は、明らかに“普通じゃない”。
チユは迷った。けれど、抑えきれなかった。
「ゼロって……人狼なの……?」
その瞬間、ゼロの目が揺れた。ほんの一瞬、笑顔の仮面が落ちかける。