第18章 目覚めの光
「……それで、『石』は?」
チユがそう聞くと、ハリーは頷いた。
「ダンブルドア先生が『石』は、もう壊したって」
「壊したの!?」
横から思わず声を上げたのは、ハーマイオニーだった。
その顔には衝撃が色濃く浮かんでいる。
「じ、じゃあ……フラメルは……死んじゃうの?」
声が小さく震えていた。
けれど、ハリーは真っ直ぐな目で彼女を見て、静かに言葉を紡ぐ。
「うん……僕もそう聞いた。でも……ダンブルドア先生は、こう言ってた」
“整理された心をもつ者にとっては、死は次の大いなる冒険にすぎない”――と。
その言葉に、医務室は一瞬、しんと静まり返った。
命と死。その境界線を歩いてきた者たちの前では、重くもあり、どこか温かな響きを持つ。
「……やっぱズレてるよ、あの人」
ロンが、感心したように呟いた。尊敬と呆れが入り混じったその声に、チユは思わず小さく笑う。
(冒険か……)
自分にはまだ、それが“冒険”だなんて思えるほどの勇気はない。
けれど、その言葉を聞いて、ほんの少しだけ恐怖心が薄れていく気がした。
「ねえ、明日は学年末のパーティがあるの。元気になって、ちゃんと来なくちゃよ?」
ハーマイオニーがそう言って、チユの手をそっと握る。
「得点はもう全部計算が終わったわ。もちろん、スリザリンが優勝よ」
「ハリーが最後のクィディッチに出られなかったからな。レイブンクローにコテンパンにやられてさ。あれはもう、すごかったんだぞ」
と、ロンが肩をすくめて付け加える。
「でもごちそうは平等に用意されてるよ」
チユが小さく笑ったその時――
「もう15分も経ちましたよ!」
マダム・ポンフリーが目の前に仁王立ちで立っていた。彼女の頬は少し紅潮していて、その目は明らかに“我慢の限界”を告げている。
「この子には休養が必要なのです。さあ、皆さん、お引き取りください」
「えぇーっ、もう少しだけ――!」
ロンが名残惜しそうに言うが、その前にマダム・ポンフリーの鋭い一喝が飛んだ。
「出なさい!」
ハーマイオニーがそそくさと立ち上がり、ロンのローブを引っ張って出口へ向かう。ハリーも静かに頷いてチユの枕元に寄ると、優しく言った。
「……本当に、ありがとう。君が無事で、良かった」
「うん……ハリーも、気をつけて」