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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第18章 目覚めの光



そのまま少し視線を逸らしながら、彼はさらっと続ける。

「それから、意外な顔も現れたな“学校1のハンサムボーイ”ゼロ・グレイン」


チユがぽかんとしていると、ジョージは口の端を少しだけ引きつらせるようにして笑った。


「熱心に姫のこと心配してたよ。まあ、あいつが来る前から俺はここにいたけどな?」


ちょっとだけ嫉妬が滲んだその言葉に、チユは小さく笑った。
それがまた、ようやく“日常”が戻ってきたことを教えてくれた。


「ありがとう、ジョージ。ずっとそばに居てくれたの?」


「当たり前だろ。姫を守る騎士になるって決めてるからさ」


ふざけたように言いながらも、その目は真っ直ぐで
それがかえって、胸の奥をくすぐるような感情を連れてきた。

2人の間に、やわらかな沈黙が落ちる。
そのとき――医務室の扉が、控えめにノックされた。


「…起きてる?」


そっと入ってきたのは、長身でどこか気品を帯びた少年――ゼロ・グレインだ。長い黒髪がさらりと揺れる。整った顔立ちに淡い微笑をたたえて、彼はチユのそばへと歩み寄る。


「君が目を覚ましたと聞いて……どうしても、顔を見に来たくて」


彼の手には、上質な紙袋が握られていた。中からちらりと覗いた包みから高級そうなキャンディだとわかる。


「ゼロ!」


驚いたようにチユは瞬きをした。声は少し掠れていたが、自然と頬に色が戻る。彼女の胸の奥に、ふわりとあたたかな何かが広がった。

ゼロの目が、静かに、けれど確かに語りかけてくる――“無事でよかった”と。


「どうか無理はしないで。君が……戦ってくれたこと、僕も心から感謝してる」


その言葉は、優しくチユの心を包み込んだ。
彼の声には、ジョージとはまた違う、真っすぐで誠実な温もりがあった。


しかしその空気を、どこか居心地悪そうに受け止めていた少年が1人。


「まったく……王子様ってのは、いつもタイミングがいいよな」


ジョージがベッドの横にしゃがんだまま、口元に皮肉っぽい笑みを浮かべる。その瞳には、拗ねたような色がうっすらと浮かんでいる。


「……じ、じゃあ、僕はこれで。無理しないでね、チユ」


ゼロはバツが悪そうにそっと紙袋をテーブルに置くと、背を向けて歩き出した。

その背中にチユが静かに手を伸ばしかけるが、その時、扉がバタンと勢いよく開いた。

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