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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第17章 2つの顔を持つ男



そこへ、バタバタと人の気配が近づいてくる。

「だ、ダンブルドア先生!」

扉の向こうから現れたのは、半月眼鏡をかけた銀髪の老人――アルバス・ダンブルドアだった。
その姿に、チユは思わず目を見開く。


「2人とも……無事で良かった」


ダンブルドアの瞳が2人の姿を確かめ、やわらかく光を宿す。

床にはクィレルの倒れた身体。砕けたターバン、その向こうにあった『顔』はもうそこにはなかった。

チユはまだ鼓動の速さが胸に残っていたけれど、鏡の奥にうっすら残る自分たちの姿を見て、ようやくすべてが終わったのだと実感した。


「先生……石は……」


チユがポケットにそっと触れながら言うと、ダンブルドアはゆっくりとうなずいた。


「それは後で預かろう、今は、君たちの身体のほうが大事じゃ」

彼はそう言って、やさしくふたりの肩に手を添えた。その手は、魔法のように温かかった。

そのまま、ダンブルドアに導かれるようにして、2人は長い廊下を歩き、医務室へと運ばれていった。


ベッドの白いシーツに包まれ、チユはようやく肩の力を抜く。
さっきまでの緊張が、波のように身体から引いていくのがわかった。


「ねえ…鏡の前で、チユが僕の前に立ってくれたとき……」


隣のベッドに横たわったハリーが、かすかに声をかけてくる。

「うん?」

「本当は、僕の方が怖かったんだ。逃げたくて、でも逃げられなくて。チユが前に出たとき、情けないけど、すごくホッとした」

「私も怖かったよ。足、震えてたもん。でも…」


チユは、言葉を少し探してから続けた。


「ハリーが隣にいてくれたから、私、自分のままでいられた」


ハリーは何も言わずに、ただチユを見ていた。
その瞳に宿った光は、安心と、感謝と――友情の証だった。


「……ありがとう、チユ」

「ううん、私のほうこそ」


ヴォルデモートの影はもうどこにもなかった。
そこにあったのは、共に闘ったふたりのあたたかな絆だけだった。

そして――チユは静かに目を閉じた。


誰にも脅かされることなく、誰にも急かされることなく。
その眠りは3日3晩、深く穏やかに続いた。

まるで、長い戦いの終わりを告げる、静かな幕引きのように。

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