第1章 空からの知らせ
寮に戻ると、部屋の空気が一変した。
同室の子供たちは、まるで毒を避けるように、チユから距離を取った。
異なる色の瞳を持ち、制御できない魔力を宿す彼女は、施設中で気味悪がられ『悪魔』と呼ばれ、恐れられる存在だった。
夜が更けて、チユは静かに寮を抜け出した。鞄は持たなかった――そもそも、持っているものなど何一つなかったのだから。
「行っちゃうの?」
突然の声に振り返ると、そこには同室の少年が立っていた。施設で唯一、チユに優しく接してくれた子だ。
「ごめんね」
チユは淋しげな笑みを浮かべた。
月明かりに照らされた顔には、強い決意の色が浮かんでいる。
「私、自分の居場所を見つけに行くの」
静かな月夜の下、チユは施設の裏庭を抜けていった。
魔法界のどこかに、きっと自分のような者の居場所があるはずだ。そう信じることだけが、彼女の光だった。
背後では『月光の家』の灯りが不規則に明滅している。まるで、去りゆく少女を見送るように、あるいは新たな運命の始まりを予感させるように。